第3話 テングマン、始動
【俺は昔から、喧嘩だけは強かった。】
【そして、その強さにモノを言わせて——かなり馬鹿もやった。】
夕暮れ時。町外れに佇む、古びた神社。大きな鳥居の前に、一人の少年が立っていた。天神タイゴである。
「…………」
ザッ、ザッ……。
タイゴは砂利を踏みしめ、境内へ入っていく。
奥から聞こえてくる、いくつもの話し声。拝殿の前には、二十人ほどの不良たちが集まっていた。
「……ん?」
一人がタイゴに気づいた。
「来たぞ……」
「一人じゃねぇか……?」
ザワザワ……。
男たちの視線が、一斉にタイゴへ集まる。
「おう! お前が天神ってやつだな?」
タイゴの足が止まった。
「本当に一人で来たのかよ?」
「あぁ……」

短く答える。
すると——。
ババッ!
人混みから、顔を腫らした男が飛び出してきた。
「フトシさん! こいつっすよ!! 俺をこんな目にしたのは!」
服も破れ、見るからにボロボロだ。
タイゴを指差した、その瞬間。
ドォン!!
「ぐふぅッッ!!」
拳が男の腹へめり込んだ。
しかし、殴ったのは、タイゴではない。
「てめぇが弱ぇから、なめられるんだろうが!」
「うぅ……」
男が腹を押さえ、その場へ崩れ落ちる。
その前に立っていたのは、この辺りの不良たちを仕切る頭——フトシだった。
「おいお前、噂じゃ“常識”を何も知らねぇらしいな?」
ニヤリと不適な笑みを浮かべるフトシ。
「ちゃんと義務教育受けたのかよ?」
(まぁ俺も、まともに受けてねぇーけどよ)

「……うるせぇな。てめぇに関係ねぇだろ」
タイゴは冷たく返した。
「フン……」
ポキッ、ポキッ……。
フトシが指を鳴らす。
「どこの馬の骨かも分からねぇ奴が、急にこの町に来てイキりやがって」
「…………」
「しかも一人で来るとは、上等じゃねぇか?」
周囲には、二十人近い仲間。
それでもタイゴの表情は変わらない。
ギュッ……。
タイゴはタクティカルグローブをはめた拳を握る。
「お前らなんて、一人で充分なんだよ」
「……あ?」
一瞬の静寂。
そして——。
「ハハハハハ!!」
笑い声が境内に響いた。
「おいおい! この人数に勝てるとでも思ってんのか??」
スッ……。
タイゴは拳を構える。
「かかってこいよ……」

「.......!!」
笑い声が止まった。
「てめぇ……!」
「なめんじゃねぇぞ!!」
ダダダダダッ——!!
「オルァァァァア!!!!」
二十人近い不良たちが、一斉に襲いかかった。
そして——。
◆
ドゴッ!!
「ぐぉおおおおお!」
気づけば、フトシは腹を押さえてうずくまっていた。その周囲には、何人もの男たちが倒れている。
「ちょっ……タンマ……」
震える手を上げるフトシ。
だが——。
シュッ——!!
ドォン!!
「アガッッ.....」
タイゴの強烈な蹴りが炸裂した。
フトシは地面へ叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
「この人数相手に……ば、化けもんかよ……!!」
「強すぎる……!!」
残った男たちは、完全に戦意を失っていた。
ザッ……。
タイゴが一歩近づく。
「てめぇらも、まだやんのか?」
「ひっ……!」
「わーーー!!! 逃げろ!!」
ダダダダダッ——!!
男たちは一目散に境内から逃げ出した。
【俺に向かってくる奴は、誰であろうと返り討ちにした。】
【当時の俺は、それでいいと思っていた。】
【それに——。】
「ちょっと!!」
女の声が境内に響いた。
「!」
ダダダッ——!!
一人の女が、慌てた様子で駆け込んでくる。そのまま倒れているフトシのもとへ向かった。
「なんで、あんな奴にやられてんのよ!!」
フトシの身体を揺さぶる。
だが、完全に伸びていた。
「…………」
スッ……。
タイゴは髪をかき上げ、女へ近づく。
「やぁ、お嬢さん。助けに来たよ!」
「ハァ?」
「俺が来たからには安心しなよ!」
【俺は、女にもモテていた。】
「フッ……」
(女を助けるために、単身で乗り込む俺……)
(こりゃ、完全に惚れたな?)
スッ……。
自信満々に手を差し出す。
「さぁ! 一緒に帰ろう!」
「私はこいつらの仲間だよ!!」

「…………え?」
※ちなみにこの時、タイゴは美人局にあっていた。
◆
【俺は昔から、“曲がったこと”と“群れる奴ら”が嫌いだった。】
【群れている奴らは結局、一人じゃ何もできねぇ。】
高校時代。校舎の屋上。
「いやーしかし、タイゴが来てから俺らもすっかり、この町じゃ顔役だな?」
「次はミノ高の奴らをシメてやろうぜ」
「ハハハ!」
三人の同級生が楽しそうに盛り上がっている。
少し離れたところで聞いていたタイゴは——。
「……はぁ」
小さくため息をつき、その場を離れようとした。
「あっ、おい! タイゴ!」
「お前も来るだろ?」
「お前がいたら百人力なんだよ!」
ピタッ。
タイゴの足が止まる。
「あぁ??」
ゆっくり振り返った。
【そういう奴らは、表じゃいい顔しても。】
【裏では、卑怯なことばかり考えやがる。】
「なぁ、いいだろ?? 仲間だろ? 俺ら?」
同級生がニヤニヤと笑う。
「お前が先陣切ってくれたら、俺らが背後からボコボコにするからよ!」
ザッ。
ザッ……。
タイゴは同級生に歩み寄る。
「てめぇらだけでやれよ」
「え?」
ドォンッ!!
「ぐはっ!!」
ガシャン——!!
一人の身体が吹き飛び、フェンスへ叩きつけられた。
「なっ……!?」
「ど、どうして俺らを……」
「…………」
タイゴは答えなかった。
【この町に来てから出会ったのは、こんな奴らばかりだった。】
◆
その後。校舎の廊下。
ザッ、ザッ……。
タイゴが一人で廊下を歩いていく。
「わっ……天神だ……」
サッ。
生徒たちが一斉に道を空けた。

「…………」
タイゴは何も言わず、その間を通り過ぎる。
「なんだよ、あれ……おっかねぇーな……」
「......なぁ、知ってるか?」
「?」
「あいつ、携帯も持たないし……高校からこの町に来たらしいんだけど、それまで携帯の存在すら知らなかったらしいぜ?」
「あぁ、聞いた聞いた……。しかも何故かいつも袋持ち歩いてて、それでセミとかバッタ捕まえて食ってるらしい……」
「なんだよそれ……あいつ猪にでも育てられたんじゃないか……??」
「おい、お前ら馬鹿! 聞こえるぞ!」
「…………」
タイゴは振り返らなかった。
聞こえていないわけじゃない。
ただ、虚ろな目で前だけを見て歩き続けた。
【ここ《学校》には、俺の居場所なんてなかった。】
◆
【それから俺は学校を辞め、初めて社会に出た。】
——ヒノモト企画——

社員たちの前に、二人の新人が並んでいた。
「は、はじめまして!」
一人の青年が緊張した声を上げる。
「本日からお世話になります、根木《ねぎ》と申します!」
深々と頭を下げた。
「まだ分からないことばかりですが、一生懸命頑張りますので……よろしくお願いします!」
その隣には、黒いスーツ姿のタイゴ。
「天神タイゴだ」
堂々と胸を張る。
「これから頑張って働いていこうと思う」
「うむ!」
社長が大きく頷いた。
「今日から我が社の新しい仲間となる、根木と天神だ! みんな、よろしく頼むぞ!」
そして、タイゴを見る。
「それから天神!」
「ん?」
「……敬語くらいは使えよ?」
「……へいよ」
【高校を辞めて宙ぶらりんだった俺を、この会社の社長が拾ってくれた。】
「…………」
その二人を、少し離れた場所から睨む男がいた。
「トロそうな馬鹿どもが入ってきたな……」
◆
それから、しばらく経ったある日。
バンッ!!
「根木ィ!!!」
怒鳴り声がオフィスに響いた。
「!!」
「なんだこの営業日報は……! 一件も営業取れてねぇじゃねぇか!」
「はい! すいません……!!」
根木が慌てて頭を下げる。
「社長は甘いから、のびのび育てる方針みてぇだがな。俺はちげぇぞ?」
「会社は利益を上げてなんぼなんだよ! いいか? 営・利・組・織だ!!」
「いつまでも学生気分で仕事してんじゃねぇ!! ボケカスがぁ!!」
「はい……!」
上司の説教は、社長がいない時ほど酷かった。周囲の社員たちは黙ったまま。誰も口を出さない。
「ったく、ほんと使えねぇな、あいつは」
上司はそう吐き捨てると、机にあった別の日報を手に取った。
「ん?……」
その手が止まる。
「おい……おいおいおい……なんだこりゃ?」
そして——。
「天神ィィ!!!」
「ん? なんだ?」
タイゴが席を立つ。
バンッ!!
目の前に営業日報を突きつけられた。
「なんだこのデタラメな日報は!! 小学生の読書感想文か!!」

そこには大量の誤字脱字の日報。文章も、ほとんどひらがなだった。
「漢字書くの苦手なんだよ」
「なに言ってんだ! お前、そういう問題じゃ——」
「次からは気をつける」
クルッ。
「あっ、おい! まだ話終わってねぇぞ!!」
タイゴはそのまま席へ戻っていく。
「…………ちっ!」
グシャッ。
上司が日報を握り潰した。
「なめやがって……!!」
◆
休憩所。
「なんで天神の奴、あの態度と頭で営業取ってこれるんだ?」
上司が缶コーヒーを机へ置いた。
「どう思う?」
「ウチのターゲット層、年配者が多いですからねぇ……」
部下が少し考える。
「ああいう物怖じしない奴って、逆に嘘つきそうに見えないんじゃないですか?」
「あと、なんかあいつアナログじゃないですか?」
「今まで携帯持ってなかったらしいですよ?」
肩をすくめる。
「そこら辺もレトロな感じでいいとか?」
「フン……」
上司は鼻で笑った。
「まぁ、まともに営業が取れないボンクラの根木くんよりは、幾分かマシか……」
「ですな!」
ハハハハ……。
その休憩所の外。
「…………」
根木が立っていた。
ギュッ……。拳を握る。
だが、何も言わない。俯いたまま立ち去っていく。
「……?」
少し離れた場所で水を飲んでいたタイゴが、その背中を見ていた。
【俺の初めての仕事は営業だった。】
【未経験にしては、順調にこなせていたと思う。】
【でも——長くは続かなかった。】
◆
「受注数は100だって俺言ったよな?」
「い、いえ……!」
根木が必死に首を振る。
「課長からは200だと聞いて、私は発注をかけました……!!」
「あっ?」
上司の目つきが変わった。
「俺が間違えたって言いてぇのか?」
「そ、それは……」
「“二百万ゼン”の損失だ」
椅子に座りながら、上司は凄む。
「どーするよ? お前……?」
「どうすると言われましても……」
「あーぁ!」
わざとらしいため息。
「なーんで社長も、こんなボンクラ採用しちまったのかねぇー」
「…………!」
「さっさと辞めちまえよ、お前」
「どうせこの分の営業も取ってこれねぇんだろ?」
ギュッ……
根木の拳が震える。
「この損失を埋めるのは誰だと思ってんだ??」
(僕の何が悪いってんだ……!)
(最近だって、頑張って営業を取れてきているのにッ!!)
「だいたい、お前はなぁ——」
バッ……!
根木の拳が上がろうとする。
——ガシッ!!
「!!」
その腕を、後ろから誰かが掴んだ。
「え? 天神くん……??」
そこにいたのはタイゴだった。
「なんだ、天神?」
——ドォン!!!

「がはッッ!!」
ドガァン!!
上司の身体が宙を舞い、壁へ激突した。
「きゃあああ!!」
「な、なんだ!?」
「おい!!」
オフィス中が騒然となる。
タイゴは倒れた上司を睨みつけた。
「毎朝、毎朝ピーピーうるせぇんだよ。てめぇは!」
「ニワトリか!!」
【俺は衝動で、ムカつく上司を思いっきり殴り飛ばしてしまった。】
◆
その後。
社長室には、重たい沈黙が流れていた。
「…………ふぅ」
机の向こうで、社長がため息をつく。
「全治二週間だそうだ……」
「…………」
「これからどうする?……天神……」
「…………」
結果。
【俺は一年も経たずに、その会社を辞めた。】
◆
呆れていたんだろうな………。
社会にも。自分にも。
それから俺は、職を転々とした。
仕事を始めては辞める。
また働いて——また辞める。
そんな日々を繰り返した。
そして、いつしか。
“何もする気”が起きなくなった。
薄暗いアパート。布団に寝転がるタイゴ。
空のペットボトル。弁当の容器。脱ぎ捨てた服。大量のゴミ。
職を転々として、その日暮らし。
気づけば何もかも——。
“めんどくさく”なっていた。
◆
——そして現在。
「…………」
ガサッ。
タイゴは散らばったゴミを袋へ放り込んでいた。
まだ綺麗とは言えない。それでも、以前よりは少しだけ片付き始めている。
ピタッ——。
ふと、手が止まった。
脳裏に浮かんだのは——。
炎のような髪。太い口髭。やたらと自信に満ちた、一人の男。
『今の“お前だからこそできること”があるんじゃないか?』
「…………」
【いまの俺には、ようやく一つの目的ができた気がする。】
チラッ。
押し入れを見る。
ガラッ——。
「そういえば、ルナさんが言ってたよな……」
「“普段着用しない服”……なんかあったっけ……?」
ガサゴソ……。
◆
——数日前。
Y.I.Lヒノモト支部。
「あと、君の戦闘服はすぐには出来ないから」
「これからアンチャーズとして活動する時は、普段着用しないような服を着てね!」
「はぁ……」
タイゴは気の抜けた返事をした。
「普段着用しないような服ねぇ……」
◆
現在。
ゴソゴソ……。
「…………ん?」
バッ——。
タイゴが引っ張り出したのは、黒いリクルートスーツだった。ヒノモト企画で働いていた頃のものだ。
「…………これにするか」
デローン……。
「なんか、ちょっとヨレてる気がする」
久しぶりに見るスーツを眺める。
怪獣ってのは、人間の社会や精神にまで影響を与えるらしい。
放っておけば、ただでさえ生きづらい世の中が、もっと面倒なことになる。
しかも、そいつらは人間の“欲”がある限り、次から次へと湧いてきて——
街を襲い、俺らを狙ってくるんだとよ。
"ムカつく"だろ?そんな奴ら。
正直、相手をするのはめんどくせぇが
それでも——。
「死にきれなかった俺が、これからの生活を快適にするために……」
スーツを肩へ掛ける。
「怪獣は片っ端から叩きのめしてやるよ!」
(まぁ、ルナさんの為でもあるけどな)
その時——。
「!!」
タイゴの視線が、押し入れの奥で止まった。
そこにあったのは——。古びた、重厚な木箱。

「…………」
タイゴはしばらく、その箱を見つめた。
◆
話は昨日へ遡る。
ピピピピピ……!
ピピピピピ……!
「うるせぇな!」
ガラッ——。
シャワーを浴びている途中のタイゴが、濡れた髪のまま風呂場から出てきた。
「なんだよ! 人がシャワー浴びてる時によ!」
ピピピピピ……!
「ん?」
スマートフォンを見る。
鳴っていない。
「俺の携帯じゃない?」
ピピピピピ……!
音は机の上から聞こえていた。
そこに置かれていたのは、Y.I.Lから支給された腕時計型デバイス。
——"アンチャーウォッチ"だった。
「あー、支給されたやつか……」
画面には『研究開発班』の文字。
「ん?? 研究開発?」
アンチャーウォッチを手に取る。
「ここ押せばいいのか?」

ピッ!
『ハロー! タイゴくん!』
「誰だ?」
『ルナだよ!』
「おー!! ルナさんでしたか!」
『あれから調子はどう??』
「元気もりもりですよ!」
アンチャーウォッチを口元へ近づける。
「ラーメン食べてから絶好調です!!」
『ふふっ、元気そうなら良かった!』
そして——。
『ところで、“ヒーローネーム”はもう決めてくれたかな?』
「え?」
タイゴの表情が固まった。
「ヒーローネーム……??」
◆
Y.I.L研究室。
ルナは端末を操作しながら通信していた。
「ほらー! 前に言ったじゃない?」
「活動するために必要な名前だよ!」
「まだ決めてないのかな??」
一方、タイゴの部屋。
「あーあー、それですね!!」
額から汗が流れる。
「はい! もちろん決めてますよ……」
『えー!! なになに! 教えて!』
『どんな名前にしたの?』
「えぇと……ですね……」
目を泳がせる。
「いやー、なんか言うのが……恥ずかしいなぁー……」
やっべぇ!
完全に忘れてた!!
『大丈夫だよー! こういうのはフィーリングだから!』
「あはは! まぁ、そうなんですけど……」
タイゴは部屋中を見回した。
……なんかアイディアが出そうなものはねぇか!?
バッ!!
冷蔵庫を開ける。
「…………」
空っぽ。
『じれったいなぁー、早く教えてよー!』
「ははっ、ちょっと待ってくださいね!」
やべぇ! 何も思いつかねぇ!
ガラッ——!!
今度は押し入れ。
ガサガサ、ガサーーッ!
なんかアイディアになりそうなもん......
でてこいやー!!
ゴトッ……!!
「ん?」
床へ落ちた二冊の本。
【江戸前日常録】
【モナン・ドイル】
そして——。
重厚な木箱。
「!!」
タイゴの視線は、本ではなく木箱へ向いていた。
「——これだ!!」
バッ!!
ギィ……。
蓋を開ける。
中に入っていたのは——。
長い鼻。鋭く吊り上がった目。黒く塗られた、古びた天狗の面。
「…………」
タイゴはそれを拾い上げた。
※今のタイゴの状況をおさらいしよう。
片手にはアンチャーウォッチ。
もう片方の手には、天狗の面。
そしてシャワーから出たばかりのタイゴは、
当然"全裸"である。
「…………」
タイゴはその場で数秒考え込む。
——。
スッ……。
天狗の面を腰元へ持っていく。

「“テングマン”です」
『え?』
◆
現在。
ギィ……。
タイゴは押し入れにしまっていた木箱を開けた。
中には、あの天狗の面。
「"テングマン"か……」
面を手に取る。
「なんか、とっさに決めちまったけど……」
しばらく眺める。
「もう顔を隠すマスクも、これでいいか……」
その時。
プー! プー! プー!
「!!」
腕のアンチャーウォッチが鳴り始めた。
画面には——。
『出動要請』
「今度はなんだよ?」
ピッ。
『アンチャーズ“テングマン”——聞こえる?』
聞き覚えのない女の声。
「誰だ?」
『初めまして』
『私は"Y.I.L観測班班長"の電脳寺セナよ。よろしくね!』
「観測班?……ん? 電脳寺?」
『“テングマン”! あなたは正式に“戦闘班”としてY.I.Lに登録されたわ』
「戦闘班……?」
『そして、早速だけど出動要請よ』
「…………え?」
「出動要請って、もしかしてもう今から怪獣と戦うのか?」
『そうよ!』
「ちょっと待てよ。俺、なんの準備もしてねぇーんだけど?」
『なら、すぐに準備をしなさい!』
『この瞬間にも怪獣被害は拡大していくわ』
『怪獣は待ってはくれないわよ?』
「…………」
タイゴは頭を掻いた。
「……分かったよ」
◆
ジャキーン!!
黒いリクルートスーツ。片手には、アンチャーグローブ。腕には、アンチャーウォッチ。
そして顔には——。
禍々しい天狗の面。
アンチャーズ——“テングマン”。

『準備はできた?』
「ああ」
『ちなみに顔を隠すマスクは持っている?』
『必要であれば“転送”するわ』
「転送……??」
タイゴは天狗の面へ触れる。
「いや、とりあえず隠すものはあったから大丈夫!」
◆
通信の向こう。薄暗い司令室。
モニターの光が、一人の女を照らしていた。
Y.I.L観測班——班長。電脳寺セナ。

『では改めて——』
『ボウソウノ原区・ツクモ里市街地に——』
『警戒レベルⅠ。食欲のヨーク怪獣——“スイカーン”が出現したわ』
◆
「スイカーン……?」
『以前、ナメトンを討伐したと報告を受けているわ』
『それと“同等レベル”の怪獣よ』
そして——。
『今のあなたでも、十分討伐できるわ!』
「なるほど……」
ゴキッ。
タイゴは首を鳴らす。
「おーし」
「めんどくせぇけど、いっちょやるか!」
そのまま歩き出そうとして——。
ピタッ。
「…………」
「てか、ツクモ里ってどこだよ??」
『アンチャーウォッチの横のボタンを押しなさい』
タイゴはアンチャーウォッチを調べる。
「……ここか?」
カチッ。
ブゥン——。
「おおっ!?」
空中に、半透明のホログラムが展開された。
「なんか出たぞ……!」
『そこから“ナビ”を選択して』
「ナビ……」
ピッ。
画面が切り替わる。
地図。そして、タイゴの現在地を示すアイコンが現れる。
『それは今のあなたの現在地から、標的までの距離を案内してくれるわ!』
「へぇ……」
『もう一度ボタンを押せば、ホログラムは解除されて元に戻る』
「ふーん」
カチッ。
ホログラムが消えた。
『それから、“アンチャーリンク”を付ければ、アンチャーウォッチと連動して声だけでも操作できるから』
「あー」
タイゴが机を見る。

「それって、なんかもう一つ支給された耳につけるやつ?」
『そうよ』
少し間が空く。
『……それより』
『それぞれの使い方の説明は、ルナから教わらなかったの?』
「聞いてたけど忘れた」
『ふふっ』
セナが小さく笑う。
『ちゃんと聞いておかなきゃダメでしょ?』
『“ガイド”と発声すると、搭載されているAIがあなたのサポートをしてくれるから、分からないことは教えてもらいなさい』
「エーアイ……??」
タイゴは机の上の小型機器を手に取る。
——アンチャーリンク。
「俺、そういうの覚えんの苦手なんだけど……」
(どうやってつけんだ?これ?)
(こうか?)
カチッ。
耳へ装着する。
『今は時間がないから、要点だけを伝えるわ』
今度は、セナの声が直接耳元から聞こえた。
『今回の怪獣データを送ってあるから、戦闘前に必ずガイドに聞いて詳細を確認すること!』
「……分かった」
『では、座標を送る』
ブゥン——。
アンチャーウォッチから再びホログラムが展開される。
画面には——。
『座標送信中——』
『では、表示されている中継地点の“街灯”まで向かうのよ』
「…………!!」
タイゴの動きが止まった。
「“街灯”……?」
脳裏に、"とある記憶"が蘇る。
「げっ!! また“あれ”をやるのかよ!?」
——続く。
◆ おまけ話
タイゴがヒーローネームを決めた直後。
ルナ側の様子。
『テングマンにします!』
「え?」
ルナの表情が止まった。
「……なんで、テングマンなの?」
『“インスピローション”ですかね?』
タイゴは得意げに答える。
『なんか急に降ってきたんですよ! その名前が!』
「…………」
数秒の沈黙。
「……そうなんだー」
ルナは、なんとか笑顔を作った。
(だっさ……)
そして。
(あと、“インスピレーション”でしょ……)


いよいよ動き出して楽しみです!
天狗のお面を顔に思ったら全裸で腰元に持っていったのは笑いました。今どきのヒーローは色々とハイテクな機器を使いこなすらしいのにタイゴは使いこなせるのか気になりました(笑)
来週、ヨークとの戦いが楽しみです!