第11話 エゴの光束と闘争の玉
「いいぞ!!敵はすでにフラフラだぞー!」
「しかし、今のバーチャル映像は本当に凄いでござるなぁ、どんどん拡散するぞ!!ヨイネ!」
「はぁー、今日も可憐で美しい。とコメント……」
配信画面を見つめる視聴者たちが、次々にコメントを送っていく。
その言葉はミラのホログラムにも流れていた。ミラは視界の端に並ぶ文字を確かめると、ぱっと顔を上げた。
「いいわね!そのコメントもらった!!」
ミラは神器エゴサイズを構え、ホログラムへ向かって振り抜いた。
「改 エゴサーチ《私を照らす言葉》」
光の刃がコメントを刈り取る。
コメントは光を帯びながら、エゴサイズの先端に浮かび上がる。
『今日も可憐で美しい』
ミラはそれを見て、得意げに言う。
「このヨークは私にとって嬉しい評価ほど光輝き、そして強くなる!」

♦
光は、質量を持って飛ばすことはできない。
もし可能だとすれば──
その速度に耐える物質。
その破壊力を受け止める空間。
それらが、必要になるだろう。
「私の光は“可視光”質量は持たない」
ミラは光をまとったコメントを見つめながら、ライガへ告げた。
「当てることはできても、物理的なダメージは与えられない」
ミラはそこで言葉を切る。
「──ただ、術は使いようなのよ?」
ブンッ……!!
ミラが神器を振ると、先端の光のコメントが消えた。
──光速の一閃。
「ガッ!?」
光のコメントは、一瞬にしてライガの胴体へ巻きついた。
「当てた後に硬質化する!」
「食らいなさい!"戒融術"《かいゆうじゅつ》改✖️塊 アンドロメント!!《光束の星鎖》」
ミラは開いた手を、握り込むように動かす。
胴体に巻きついた光のコメントが、鎖の形へと変わっていく。柔らかな光の帯は瞬く間に硬質化し、ライガの体を締め上げた。
ギチギチギチィ!!

「グオォオオオ!!!」
ライガが苦しげな叫びを上げる。星のように輝く鎖は、逃れようとする体へさらに食い込んでいった。
♦
万物には理がある。
火は人の暮らしを支えるが、扱いを誤れば使い手さえ焼き尽くす。
川もまた大地を潤すが、流れを乱せばあらゆるものを呑み込む。
ヨークは、普通の人間には見えないが、世界に満ちる自然エネルギーのように流れる力。正しく扱えばアンチャーに力を与える。しかし、その流れを制御できなければ暴走し、使い手自身をも傷つける。
そこでアンチャーは、自らに戒律を定め、神器に誓いを立てる。戒律によってヨークの暴走を鎮め、アンチャーのイメージに応じて本来の力を引き出すのだ。
戒律――それは、ヨークの奔流を己の力へと変える理である。
ミラは「アルデバランの使用時、自身にとって嬉しいコメントだけを光の鎖にできる」という戒律を定めている。その誓いにより、鎖の拘束力は、ミラにとって嬉しい評価ほど強まる。
♦
「そのまま、締め上げられるといいわ!!」
ギチギチギチィッ!!
光の鎖が、ライガの体を容赦なく締めつけていく。
「ヌヌヌヌ………!!」
──とある部屋。
リビングに置かれているテレビで、ひとりの少女がミラの配信映像を見つめていた。
「かっこいい……」
配信画面のホログラムを確認したミラは、同時接続者数が一万人を超えていることに気づいた。
「あら?もう"大戒"《たいかい》を満たしてるわ!みんな応援ありがとう♡」
視聴者へ手を振ると、すぐにライガへ向き直る。
「じゃあ、早いけど一体目はこれでフィニッシュね!」
「行くわよアル!」
「アルルゥ!!」
ミラはエゴサイズを両手で構えた。
その視線の先にいるライガは、身をよじりながらうなっている。
「改ス──」
そのときだった。
ミラの背後に、大きな影が現れた。
「ホシイ……ホシイ」
「!!」
「しまった!!もう一体いたんだわ!」
その声に気づき、ミラは振り向いた。

背後には、フウガがいた。自分の体ほどもある大きな袋を抱え、その口を大きく広げた。
【我欲強奪《がよくごうだつ》】
周囲の空気が袋の中へ吸い込まれ、凄まじい風が巻き起こった。
ビョオオオオオオ!!!
「ちょっと!!なによ、この風ッ……!」
風にあおられ、ミラの髪が袋の方へ強く引かれる。ミラは吸い込まれまいと足を踏ん張り、身を低くし、エゴサイズの柄を握りしめた。
ズズズズズ……!!
風はさらに強まる。エゴサイズの柄尻も路面を擦りながら、袋の方へ滑っていく。
ビュッ──
「あっ!!」
エゴサイズはついにミラの手から引き離され、フウガの方へ吸い込まれていった。
「私の神器がっ!!」
パシッ──
フウガが空中で神器をつかむ。
「ユカイユカイ♩♩」
フウガはエゴサイズを手にしたまま、楽しげに笑った。
「ちょっと!!返しなさいよ!!」
ミラが叫ぶ。しかしフウガは答えず、エゴサイズを持ったまま飛び去っていった。
♦
「グオオオオオオ!!」
背後ではライガが雄叫びをあげる。
「!?」
ミラは振り返り、ライガを見た。
グググググ……!!
ライガは光の鎖を力任せに引きちぎろうとしていた。
「こいつ術を力で解こうとしてるの?」
ミシミシミシィ……!!
光の鎖からは鈍い音が響いている。
「無理ね!その光束は戒律で出力を上げているのよ!そう簡単には壊れないわよ!」
その瞬間──
ライガは膝を曲げ、鎖に縛られたまま両足で地面を思いきり踏み込んだ。
ダンッ……!!
地面を蹴り、鎖に縛られたまま空高く跳び上がる。
……!!
ミラが見上げる。
ライガは空中で身をひねり、叫んだ。
「ハ・カ・イ!!」
空中のライガから、ヨークが噴き上がった。凄まじい圧が押し寄せ、ミラの全身に悪寒が走る。
このヨーク量、まずい!!
ミラはとっさに体を固めた。
「剛《ごう》ッ!!」
次の瞬間、ライガは縛られたまま空中から急降下し、両足で地面を思いきり踏みつけた。
【破戒天墜《はかいてんつい》】
ズドォオオオオオン!!
轟音とともに衝撃波が広がり、周囲のビルに亀裂が走る。

♦
──アサクサ町郊外
『ズドォオオオオオン!!』
アサクサ町の郊外に設けられた封鎖線。欲処理班の隊員たちは装甲車で道路を塞ぎ、遠くから響く轟音を聞いていた。
「………」
轟音が響いても、隊員たちは持ち場を離れず、誰ひとり口を開かなかった。街の中で戦うアンチャーたちを信じ、封鎖線を守り続けている。
──アサクサ町地下シェルター
地面を揺らすような轟音が、シェルター内にも響いた。
ザワザワ……。
避難していた人々が、不安げに天井を見上げる。
「今の音、何!?」
「何が起きてるんだ……?電波が繋がらんから、何も分からん!」
人々の間に不安が広がり、ざわめきが大きくなる。
シェルターに市民の誘導をした欲処理班の隊員は、すぐに声を張った。
「ご安心ください!シェルター内の安全は確保されています。どうか落ち着いてください!」
隊員は不安げな人々を見回し、落ち着かせるように呼びかけた。
──アサクサ町
ミラは、吹き荒れる衝撃波に耐えながら、片膝をついていた。
とんでもない、威力……こいつ、なんてパワーなの!
なんとか、持ち堪えたけど、かなりヨークをロスしたわ……
ライガが雄叫びを上げる。
「グォオオオオオオ!!!」
その体から、膨大なヨークが噴き上がった。
ピリピリピリッ!!
ヨークの衝撃が、街のビルを震わせる。ミラはその圧倒的な量に、思わず息をのんだ。
それでも、光の鎖はライガを縛り続けている。
「グヌヌ……ホドケヌ……!!」
「もう!なんなのよこいつ……!」
ギチギチギチィ──!!
光の鎖はさらにライガを縛りつけようとする。
「グヌオオ!!」
ライガがなおも暴れる。
「だから、そう簡単に壊れないって──」
ピシッ──!!
ミラが言い切るより先に、光の鎖へひびが走った。
「うそ……?ヨークの出力が弱かった!?」
いや、こいつが想定以上に強いのか……
とにかく、もう一体の奴からエゴサイズを取り戻さないと……
ミラは周囲を見渡し、フウガの姿を探す。
「ユカイ♩ユカイ♩」
フウガはビルの上で、こちらを見下ろしていた。

「いたわ!」
「巡《じゅん》……!!」
ミラはヨークを練り上げようとした。
「………」
しかし、何も起きない。
「ってあれ?ヨークが練れない!!何で??」
ホログラムに目を向ける。
「……まさか!!」
なんと配信上のコメント欄には、アンチコメントが並んでいた。
【なんか、ピンチ展開があるあるだよね】
【早く倒せよ!】
【この女、弱くね?】
【武器を取られたらなにもできねぇのかよ】
「アンチコメントだ……かなしいよ……」
ミラはその場にしゃがみ込み、うなだれた。
アンチャーには弱点が存在する。
ミラは配信で称賛や応援を集めるほど、承認のヨークがみなぎり、力が増していく。だが、否定的な反応を受けると心が揺らぎ、新たに承認のヨークを生み出せなくなってしまう。
♦
──とある家
「むむむ!!アンチどもめ!!どこからともなく湧きおって!キラたん負けるなぁ!!」
配信を見ていたオタクは、コメント欄を見ながら憤慨していた。
一方、ミラはアルの様子を気にしていた。
「やばい……!このままだと、アルの維持にヨークを取られすぎる……!!」
アルは、ミラのヨークを吸い上げ続けている。
「グォオオオオオオ!!!」
ライガの全身に力がみなぎった。光の鎖がギリギリと軋み、鎖の表面にさらにひびが走る。
「ハッナッセッ!!!」
バリバリバーン!!
ついに光の鎖が弾け飛び、砕けた光の欠片が周囲に散った。
「そんな……鎖を、力ずくで引きちぎったの……!?」
「ヌハハッ!!」
解放されたライガは、猛スピードでミラへ駆け寄った。
「まずッ、剛ッ……!」
ミラは身を固め、防御の姿勢を取る。
ライガが拳を振りかぶる。
「ハカイッ!!」
【暴裂掌《ぼうれつしょう》】
掌から放たれた衝撃波が、ミラへと襲いかかった。
体を固めたミラは、両腕を交差させて正面から受け止める。

ズズズズ……!!
衝撃波の圧力が全身にのしかかる。ミラは必死に耐えるが、足元が少しずつ後ろへ滑っていく。
「ヨークが、足りない……!!」
防御を支えていたヨークが尽きた。
衝撃波がミラの体を押し切り、吹き飛ばす。
──ドォォオオオン!!
ミラは爆風にさらわれ、猛スピードで宙を飛んでいく。
「いやぁぁあ!!誰か受け止めてぇーー!!」
♦
その頃、タイゴは怪獣のもとへ向かって走っていた。
その頭上に、突然ミラの影が落ちる。
ドンッ──!!
「うぉおおおおお!?!?」
「きゃぁぁぁあああ!!!」

タイゴはとっさにミラを受け止めた。だが、勢いを止めきれず、ミラを抱えたまま後ろへ押し流される。
下駄が地面を擦る。
ズザザザーーーーッ!!
そのままタイゴは、ビルの壁に激突した。
ドォン──!!
「イテテ……なんだよ、なにか飛んできたぞ!」
タイゴは腕の中のミラを見下ろした。
むにっ。
その手は、なんとミラの胸をつかんでいた。
「あっ……」
ゴゴゴゴゴ……!!
抱えられたミラは、うつむいたまま怒りをにじませる。
「って……どこ触ってんのよー!!ヘンタイ!!」
ミラはタイゴを殴り飛ばした。
「ぐはぁ!!」
タイゴの体が横へ吹き飛び、地面を転がる。
「ヘンタイ!ヘンタイ!へんたーーい!!」
胸元を隠しながら、ミラはタイゴを指さした。
「お前が勝手に飛んできたんだろうが!!」
タイゴは頬を押さえ、言い返す。
「知らないわよ!あんたなんかクッションだけやってればいいのよ!!」
「あぁん?クッションにもならねぇ胸しやがって!」
ブチン……。
ミラの中で、何かが切れた。
「……いいいかげん、あったまきたわ……」
ミラは構えを取る。
「先にあんたからやってやる!!」
「あん?上等だよ!この野郎!!」
タイゴも指の骨を鳴らす。
ふたりが言い争う、その頭上――。
いつの間にか、靄をまとった丸い玉が浮かんでいた。
玉の表面から、赤黒いヨークがゆらゆらと立ちのぼる。ふたりはまだ、その存在に気づいていない。
謎の玉は、ふたりを見下ろすように浮かびながら、ヨークを放つ。
「アラソエ……アラソエ……」
【闘争連鎖《とうそうれんさ》】

♦
「ぺちゃぱいめ!!!」
タイゴが拳を振り上げる。
「このヘンタイ!!!」
ミラも拳を振り上げた。
ふたりはボコスカと殴り合いを始めた。やがて、殴り合うふたりを包み込むように、丸い煙が立ち上る。
配信を見ていたオタクたちは、画面の前で騒ぎ出した。
「キャットファイトが始まった!!」
「いや、キャットファイトじゃないだろ!相手は男だぞ??」
「オイラのキラたんを殴るなぁ!!」
配信画面には、応援のコメントが流れていく。
【キラたん負けるな!!】
【ひょっとこなんかぶっ倒せ!】
【喧嘩してるキラたんも可愛い】
コメントを目にしたミラの中で、承認のヨークが再び膨れ上がった。
「オラァァ!!!!」
ミラはタイゴの腹部へ、力いっぱい拳を叩き込んだ。
「ぐふぅ!!!!」
ミラの一撃を受け、タイゴの体が勢いよく吹き飛ぶ。
ビュオッ──!
次の瞬間、タイゴはビルの壁に叩きつけられた。
ドォォオオオン!!
壁にめり込んだタイゴの体が、衝撃で大きく揺れる。
「ふん!覚醒したばかりのあんたが私と闘り合うなんて100年早いのよ!素手でも強いんだから!」
タイゴはビルに逆さまにめり込んでいた。
「くそ……あの野郎」
タイゴは悪態をつきながら、自分がミラと殴り合っていたことを思い返す。
「……ってなんで俺あいつと戦ってんだ?」
そのとき、どこからか太鼓の音が鳴り響いた。
ドンッ、ドンドコッ!カッカッ!!
「!!」
ミラの背後に、ライガが現れる。
「はっ!そうだったわ!なんで私あいつなんかと戦ってるのよ!!標的はこいつなのに!」
ミラは再びライガへ向き直り、構えを取る。
だが、すでにライガの太鼓には電気が溜まっていた。
ドドンッ!!!
「ハカイ!!」
【雷轟一閃《らいごういっせん》】

ライガの放った雷撃が、ミラを直撃する。
バリバリバリィィッ!!
「きゃあああああっ!!!」
全身を貫く衝撃に、ミラの体が吹き飛ばされた。
ズガァァン!!
ミラは衝撃でビルの壁に叩きつけられた。
体を、電流が駆け巡る。手足がびくびくと震え、ミラは壁から崩れ落ちた。
「がはっ……うぅ」
かすかなうめき声を漏らし、そのまま意識を失った。
♦
「ハカイ……ハカイ……」
ライガはつぶやきながら、倒れたミラへ近づいていく。
ズザッ──
その背後に、いつの間にかタイゴは立っていた。
「ちっ……さっきからよ、どいつもこいつも……」
ドクンッ!!
タイゴの胸の奥で、何かが脈打つ。
「“めんどくせぇな”」
黒いヨークがタイゴの体から一気に立ちのぼり、渦を巻きながら肩や腕へと集まっていった。
お面の奥からは、張り詰めた気配がにじみ出ていた。
背後の気配に気づき、ライガは振り返る。
「!!」
「おい、"赤ゴリラ"。俺が相手だ。まずは、思いっきり殴らせろ」
タイゴの体に、さらにヨークが集まる。
「ハカイ!!!」
ライガが雄叫びを上げ、タイゴめがけて襲いかかった。
「うぉりゃあああ!!!」
ライガの一撃が届く寸前、タイゴが踏み込み、拳を叩き込む。

先手を取ったタイゴの拳が、ライガの顔面を捉えた。
衝撃に押し負けたライガの巨体が、勢いよく吹き飛ぶ。
──ドォォォオン!!!!
地面に落ちたライガは、膝をつき、顔を押さえた。
「グヌヌヌヌ……!!」
タイゴは拳を構え直す。
黒いヨークが腕に渦巻いていた。
「ここからは、"俺の時間"だ!」
続く!!

