第10話 承認の刃、舞い踊る!
今よりおよそ千年の昔──ヒノモト王朝期
争ヒ玉《アラソイダマ》と奪ヒ玉《ウバイダマ》という二体の妖怪が、たびたび現れた。
それらは人の争いと強奪の欲をあおり、都に数多の災いをもたらした。
だが当時、その力は小さく、“影者”《かげもの》の手により幾度も討たれたという。
それから時が経ち、戦乱の世。
飢餓と戦火により、人の欲は満ち溢れ、やがて二つの妖は変貌し、新しい名が冠せられた。
争ヒ玉は雷を宿す鬼──ライガ
奪ヒ玉は風を纏いし魔──フウガ
その力は天を裂き、地を砕き、三日三晩、天変地異を引き起こした。
これらを討伐したのは、戦乱期の英雄──猿飛 天魔
ただ独り、両の妖を討ち滅ぼしたとされる。
後の世、人々は二体の妖を畏れ、土地神として祀ったという。
『猿飛伝 風雷降魔の段』より抜粋

♦
──シン・トウキョウ特区アサクサ町
プゥープゥー!!
街の人々の携帯電話から、一斉にアラームが鳴り響いた。
「なに?」
「災害アラーム!?」
画面に表示された通知には、こう記されていた。
【異常災害発生。アサクサ町一帯は異常災害区域に指定されました──】
ウゥゥゥゥーー!!
警報サイレンが町中に響き渡る。
続いて、街中のスピーカーから防衛隊の放送が流れた。
「ヒノモト防衛隊より緊急通達。現在、アサクサ町一帯が異常災害区域に指定されました」
「現在、原因不明の異常な落雷と強風が発生しています。危険な状態のため、アサクサ町は緊急封鎖されます。住民の皆様は、防衛隊の指示に従い、速やかに避難してください。」
ザワザワ……
通達を聞いた住民たちは、欲処理班に先導され、混乱しながらも避難を始めた。荷物を抱えて走る者、家族の手を引く者。町には人々の声と足音が入り乱れていく。
♦
──時は少し遡り、Y.I.Lミーティングルーム
モニターには、避難している住民達の様子が映し出されていた。
カガリは一人、映像を見つめながら説明を続ける。
「こやつらが上位個体として出現したのは過去に一度きり。“未登録怪獣”に近いといっていいだろう……」
モニターの映像が切り替わる。ライガとフウガ、それぞれの姿が大きく映し出された。
「情報は少ないが、標的は"財欲"と"闘争欲"の怪獣。そして怪術は雷と風に関連したものであることは間違い無い」
カガリは二体の怪獣の映像を見据えたまま、言葉を続ける。
「被害は大きくなることが予想されるゆえ、早期決着をつけねばならん!」
そして、ミラへと視線を向けた。
「ミラよ!お前の能力は先手さえ取れれば、どんな怪獣にも対応できる」
「期待しておるぞ。」
次に、カガリはタイゴへ目を向ける。
「それからタイゴ、今回お前はミラのサポートに回れ。ミラの戦い方を見て学ぶのだ」
最後に二人を見渡し、力強く告げた。
「任せたぞ、お前達。」
♦
──アサクサ町上空
雲のようなものに乗った二体の怪獣が、空を背に黒いシルエットとなって浮かんでいた。
その内の一体が手にしている袋を揺らし、楽しげに声を上げる。
「ユカイ♩ユカイ♩」
ビューッ!!
町中に強い風が吹き抜けた。
宝石やお金が風に巻き上げられ、袋の中へ次々に吸い込まれていく。
ドンッドンッドンッ!!
もう一体の怪獣は、背中の太鼓をバチで打ち鳴らした。
太鼓の表面を青白い稲妻が走る。怪獣は力を込め、町に向かってバチを振り下ろした。
「ハカイ!!!」
太鼓に帯びていた電気が、稲妻となって一直線に町へ走る。
ドッゴォォンッ──!!
轟音が町を揺るがす。青白い稲妻が、次々と地面へ叩きつけられた。
アサクサ町のシンボルともいえるKUMONOKIタワー。その前に、二体の怪獣が堂々と構える。
警怪レベル II
上位個体
財欲 怪獣フウガ(奪ヒ玉)
闘争欲 怪獣ライガ(争ヒ玉)

♦
──アサクサ町とあるビルの屋上
タイゴは天狗のお面をつけたまま、遠くに見える怪獣たちを見上げていた。
「……めんどくせぇな。」
そのとき──
スタッ
ミラがどこからともなく屋上へ降り立った。
「遅い!!」
タイゴの体が、ビクッ!!と跳ねる。
「びっくりした!」
タイゴはぼそりとつぶやいた。
(お前どっから現れたんだよ?)
「何してたのよ!!」
いつの間にか、ミラは動きやすそうなボディスーツの姿になっていた。

「何の準備もしてねぇから、ウチに取りに帰ってたんだよ!」
「ホレ!」
タイゴは天狗のお面と、家から持ってきたバットを見せる。
「あんたね”転送”を使いなさいよ!」
ミラは呆れたように続けた。
「使い方も知らないの?」
そう言いながら、アンチャーグローブをはめた手を、タイゴに向けて見せる。
「は?転送はしてきたぞ?」
タイゴは何がなんだか分かっていない様子。
「はぁー、もういいわよ」
ミラはアンチャーウォッチを操作し、怪獣のデータを確認した。
だが、表示される情報はほとんどなかった。
「やっぱり、情報はほとんどなしか……」
ミラはウォッチの画面を閉じる。
「ぶっつけ本番ってわけね!」
「………」
タイゴは黙ったまま、ミラを見ていた。
ミラはビルの下を覗き込む。住民の避難はすでに終わり、人影の消えた町は静まり返っている。
「さて、避難はあらかた完了してるみたいだから、日没前には終わらせるわよ」
ミラはタイゴに向き直った。
「アンチャーリンクを"チーム通信"に切り替えなさい!」
「なんだそれ?」
──ザザ……
『本当にとろいヤツね、あんたは』
タイゴの耳元のから、声が聞こえてくる。
「おー、なんか聞こえた」
ミラはタイゴを睨みつけた。
「まったく、“初のバディ”でなんでこいつと私が組まされるのよ。私一人でも充分だってのに」
タイゴも負けじと言い返した。
「こっちの台詞だ。お前がいなくてもあんなゴリラ共、俺だけで充分だ!」
二人の脳裏に【これは命令だ!!】と叫ぶカガリの姿が浮かぶ。
二人は同時に顔を背けた。
「ふん!!」
♦
「まったく!調子狂うわ」
ミラはタイゴの方へ向き直り、びしっと指を突きつける。
「あんたは今回"サポート役"なんだから、そこで私の活躍を見てなさい!」
──スッ
ミラ利き手を上に掲げた。
「あん?何する気だよ??」
訝しげな表情でミラを凝視するタイゴ。
カチッ。
ミラはアンチャーグローブのスイッチを押した。
「"神器"……エゴサイズ!」
ブゥゥーーン……!!
神々しい棒のような武器が、ミラの手元へ転送されてくる。
「なんか出た!!」
タイゴが驚く。
カチッ。
ミラは再びボタンを押した。
【エゴイスト《光に変える私》!】
ミラの体から出ているヨークがきらきらした光へと変わり、輝き始める。
武器の先端からは、鎌の刃先のような光の刃が伸びてきた。
ミラはそのまま武器の柄の端を地面に軽く打ちつけた。
カツン──
その音と同時に、ミラが唱える。
【"戒術"……改 エゴメイク《もう1人の私》】
ミラの髪色が金色へと変わり、長いツインテールになる。瞳は星のようにキラキラと輝き、ボディースーツにも装飾が施された。

「髪が金色になったッ!!!」
タイゴはまたしても驚いた。
ミラは武器を正面に構える。
「神器解放……!」
【"戒融術" 改✖️塊 アルデバラン《星の追跡者》!!】
キィィィン……!!
ミラの背後に、惑星型のカメラのような戒獣が浮かび上がる。
「アルルゥ!!」

「またなんか出たッッ!!!!」
タイゴが三度、驚きの声を上げる。
「ちょっと、さっきからうるさいわよ!あんた!」
ミラは怒り顔でタイゴを見た。
「集中できないでしょ!!」
「だって、びっくりするだろ!」
タイゴは少し興奮していた。
「なんかマジックみたいだ!」
「………」
ミラは呆れた目でタイゴを見ると、戒獣へと向き直る。
「さて、バカはほうっておいて、"アル"!」
戒獣はミラにカメラを向けた。
「“ライブスタート”よ!」
戒獣にヨークが強くこもる。
「アルルゥ……」
カチッ
♦
──とある家にて
シュ……!
配信サイトに、ミラのライブ映像が投稿された。
ラーメンを食べていたオタクAが、画面を見て叫ぶ。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!配信がはじまった!!」
──配信映像
配信映像の中で、ミラはファンサのポーズをとった。
「お待たせしました!ただいまログイン!世にはびこる悪を、キラキラ笑顔で華麗に撃退!みんなの心に希望の光を届ける、電脳世界のスーパースター♩ちょっぴり生意気? 仕方ないでしょ♡スターなんだから当然よ⭐︎バーチャル戦士、スターキラ!今宵もヨイネとコメントよろしくね♡」
──現実
「何言ってんだ?お前?」
タイゴは冷めたツッコミを入れる。
(だまってなさいよ……!)
ミラは小声で答える。
モニター越しに見ていたオタクAが、歓声を上げる。
「きたーーー!!謎のバーチャル戦士、"キラたん"のライブ配信だ!!」

別の場所にいた、オタクBも興奮した様子で声を上げた。
「キタコレ!!今日はどんな怪奇現象と美しい舞踊を見せてくれるんだ!!」
♦
星影ミラ《スターキラ》:承認欲
戒相:改変
固有能力:エゴイスト
自身のヨークを光へと変質させる能力
神器:エゴサイズ
ミラの能力のポテンシャルを最大限に引き上げる、棒型の専用武器
アンチャーズは神器と共鳴することで、固有能力の可能性を広げ、異なる戒相を組み合わせた「戒融術」を使えるようになる。
ミラの場合、改変に塊成が加わることで、光の性質を持つ戒獣を生み出す。
その戒融術の一つが──『アルデバラン』
アルデバラン──通称アルは、観測した映像をミラの思い描く仮想映像に加工し、光学投影で再現する。その映像を配信サイトへ送り、生配信を行う。
ミラはその映像をホログラムとして展開し、配信状況をいつでも確認することができる。
そして配信で注目を集め、視聴者から評価されるほど、ミラの承認欲は高まり、承認のヨークは生み出されていく。
この術により"条件さえ揃えば"、ミラは現存するヒノモトのアンチャーズの中で最も速くヨークを充填し、最も長く戦えるヒーローとなる。
"ただし"、アル自体が常に高コストなヨークを消費し続ける為、ミラはパフォーマンスによって、より多くの注目と賞賛を集めなければ、この術を維持できない。
♦
──配信映像
配信画面には、現実とは異なるバーチャル空間が広がり、怪獣たちも仮想映像として映し出されていた。そのため、一般人にも怪獣の姿が見えている。
映像の中でミラは怪獣たちを指さした。
「さぁ!みんな今日の標的はあいつらよ!!」
遠目に怪獣達が映る。
「応援してね♡?」
視聴者に向けて、ミラはウインクをする。
「おぉーー!!!キラたん♡♡!!!」
画面の向こうから、オタクたちの歓声が上がった。
さらに別の場所でも一人のサラリーマンが配信を見ていた。
「おっ、今日はでかい鬼が相手か……??てか相変わらず、すごい映像だな……どうやって作ってるんだろ??」
──現実
ブゥゥーーン。
ミラはホログラムを展開した。
配信中のコメントやヨイネは次々に増え、同時接続者数もぐんぐん伸びていく。
「いいわね!もう同接が3千人を超えたわ!さすが私!」
!!
ミラは何かを思いついたように、アルの方へ顔を向ける。
「そうだ!みんな!今日は敵が二体もいるから、私の”助手”にも手伝ってもらうことになってるの!」
「助手!?」
オタクたちが反応した。
「紹介するわね!」
「………」
ミラはタイゴの方を見る。
「………なんだよ?」
タイゴは、だるそうにミラを見た。
ミラは心の中でつぶやく。
“ひょっとこ”でいいか……
「アルルゥ!!」
カチッ。アルがカメラをタイゴに向ける。
「“ひょっとこ丸”よ!!」
──配信映像
どどーーん!!
タイゴは、映像の中でひょっとこに変わっていた。ひょっとこ姿のタイゴが画面の中に大きく映し出される。

「なんだ、このふざけた奴は!!」
「全力でキラたんのサポートをしないと承知しないぞ!!」
画面上でヨイネが上昇していく。
──現実
「よしよし、みんな良い子ね!ヨークがみなぎるわ!!」
ミラの体に纏うヨークは大きくなり、同時に神器の先端にある刃も力強く光る。
タイゴはミラの発言に眉をひそめ、声をかけた。
「おい、お前なんか変なことしただろ?」
ミラはタイゴの言葉に答えず、ビルの屋上の縁で構えた。
「それじゃ、いくわよ!アル!」
ダッ、ダダダダッ――
屋上を一気に駆け抜ける。
タァンッ!!
最後の一歩で踏み切って宙へ飛び出した。
「あっ、おい!死ぬ気かよ!お前!」
タイゴが呼びかける。
タンッ!!
「よっと!!」
ミラは軽やかな動きで近くのビルに飛び移り、移動していく。
タイゴの耳元から、ミラの声が聞こえてくる。
『バカね、あんた』
「!!」
タイゴが反応する。
『死ぬわけないでしょ?』
ミラはビルからビルへ、飛び移っていく。
♦
──ミラ視点
「ヨークが体を巡ると身体能力は向上するのよ!」
ビルの屋上を次々と駆け抜け、ミラはフウガとライガへ迫っていった。
──ビルの屋上
タイゴは、遠ざかっていくミラの姿を目で追った。
「そうなのか?そんなことジジイから教わってないぞ……」
【実戦あるのみだ!】
タイゴの想像の中で、カガリがグッドポーズを決めている。
「まぁ、あいつができんなら俺もできるだろ」
タイゴはバットを持ち、クラウチングの構えを取った。
「いくぞ!!」
ダダダダッ!!
──タンッ!
「トォーーーーゥ!」
タイゴも思い切り踏み切って、屋上を飛び出した。
しかし──
「って、あれ?」
全く跳躍が足りず、空中で動きが止まる。
「全然跳べねぇーじゃん!!!!!」
タイゴはそのまま落ちていった。
ビュゥゥゥゥゥー!!!
周囲のビルや街並みが、視界の上へ駆け抜けていく。

……やべぇ!!このままじゃ、地面にぶつかるッ!!
ゴォォォォ──!!!
みるみる加速し、地上が迫る。
死ッ…!!!
──ドクンッ!!
タイゴの体にヨークが纏っていく。
「……クソ野郎ッ!!」
ぐるんっ!!
タイゴは空中で体を捻り、体勢を立て直し、両手でバットを大きく構えた。
「即席変化ァァァァア!!」
シュルルルル……
バットがみるみる変化し巨大になっていく。
「オラァ!!」
ドッゴォォオオオン!!
タイゴは変化したバットを、思い切りビルの壁に突き刺した。
パラパラ……
バットは壁に食い込み、破片が落ちていく。
タイゴは地上すれすれで直撃を免れた。
「……た、、助かったぁ……」
♦
──ミラ視点
ミラはビルの屋上を走りながら、タイゴの声を聞いていた。
なにやってんの?あいつ……?本物の馬鹿なの?
「アル!!」
ミラはアルへ声をかける。
アルはミラの前方へ先回りした。
「アルルゥ!!」
ダンッ!!
ミラはアルを踏み台にし、さらに高く跳び上がる。
シュバーーーン!!
ライガとフウガのもとへ、ミラが迫る。

二体の怪獣が、ミラに気づいた。
「!!!!」
ライガは、背後に付いた太鼓をバチで叩き始めた。
「ドンッドンッドンっドン‼︎」
一方フウガはミラが近づいてくるのを見て、そそくさと逃げていく。
「ふん、今更気づいても遅いわよ。こっちはもう充分にヨークが溜まってんのよ!」
グググ……!!!
ミラは空中で神器を構えた。
「改 エゴフラッシュ!!(光、輝く私)」
ミラが神器を振り抜く。
──キィィイイイン!!!!!
眩い閃光が、アサクサ町を包み込んだ。
「グォォオオオ!!!」
光を受けたライガは目を押さえながら、落下していく。
──ズドォォオオン!!!!!
ライガが地面に激突する。
「あら、すぐ落ちちゃって、大したことないわね!」
ミラはタワーの外壁に掴まり、ライガを見下ろした。
「よっと!」
そして、外壁を蹴りながら、下降していく。
──スタッ!
ミラが地面に着地する。
「グヌヌヌ……」
ボロボロになりながらもライガは立ち上がろうとしていた。
しかし、まだ視界は戻らないのか、ライガは目を押さえ込んでいる。
「さぁ、一気に片をつけるわよ!!」
神器を構え、決めポーズを取るミラ。
その頃、地上へ降りたタイゴは──
「げッ!!バットがもう粉々になった……!」
タイゴのバットはすでに、原型を留めないほどボロボロに崩れ落ち、使い物にならなくなっていた。
次回へ続く!

