第9話 最悪な出会い
——Y.I.L.ミーティングルーム。
扉が開くと、ルナがにこにこと笑いながらタイゴを迎えた。
「やぁ!しばらくぶりだね!タイゴくん!」
「ルナさん!お疲れ様です!」
タイゴは背筋を伸ばし、敬礼した。いつもの気だるげな様子とは別人のようだ。
「"言われたもの"持って来ましたよ!」
タイゴは、思い入れのある品が入った小袋を、ルナに差し出した。
「わぁ!ありがとう!」
ルナは嬉しそうに小袋を受け取った。
その様子を見たタイゴは、褒めてもらうのを待つ犬みたいに、期待に満ちた様子でルナを見つめている。
それに気づいたルナは、楽しそうに片手を差し出した。
「おて♩」
タイゴは従順に、自分の手をルナの手のひらに乗せた。
その一連の流れを見たカガリは呆れるように額に手を当てた。
「……やれやれ」
……相変わらずルナには素直なんだよな
♦
机の上に、小袋から取り出したものが置かれた。
ドーン!
ボロボロのタクティカルグローブ。無数の傷と、ところどころに残る血の跡が禍々しさを演出していた。

ルナは戸惑いの表情を見せながら、口を開く。
「こ、これがタイゴくんの……思い入れのあるもの……?」
「はい!これに今まで何度、救われたことか……!」
タイゴは懐かしむようにグローブを見つめた。
ルナはグローブをじっと見て、眉を寄せる。
「そうなんだ……。でも、所々に血がついてる気がするんだけど……?」
カガリとルナは、そろってグローブを見つめた。二人の額に、冷や汗が浮かぶ。
その隣で、タイゴだけが誇らしげに胸を張っていた。
「まぁでも、これを"より強い武器"にするなら上々だね!」
ルナは気を取り直すように、目を輝かせる。
「ふむ。確かにお前の戦闘スタイルに、その拳鍔《けんつば》は合っていると言えるだろう」
「そういえば、"専用武器"って奴もルナさんが作ってくれるんですか?」
「ううん!専用武器はある素材と特殊な技術が必要でね、また別の機関があるんだよ!」
「ほー、なんか色々複雑なんすね……」
タイゴは首をかしげた。
アンチャーズの専用武器作るには、いろいろと手順があるらしい。
カガリは姿勢を正し、タイゴに向き直った。
「ところでタイゴ。お前の性根を叩き直すと言ったがな──今日はまず、お前の異能の“戒相判別”《かいそうはんべつ》を行う」
「かいそう?なんだそりゃ?」
タイゴの頭には、ワカメが浮かんだ。
ルナが説明を引き継ぐ。
「私が説明するね!アンチャーが発現する異能には、4つの分類と特徴があるんだよ!」
(分類……?)
「そう!異能は傀儡《かいらい》怪化《かいか》改変《かいへん》塊成《かいせい》という4つの分類に分かれていて、その総称を私たちは戒相と呼ぶの!」
ルナがミーティングルームのモニターを操作すると、四つの戒相とその特徴が画面に並んだ。

「また、難しい内容だな……」
タイゴは困ったように眉を寄せた。
ルナは指を立てる。
「一発で理解するのは難しいかもね!」
その言葉に、カガリが横から口を挟んだ。
「戒相を知ることは、自身の能力の理解を深めることになる。より強くなるためには、必要なことなのだ」
「ふーん……でどうやって判別すんだよ?」
「うん!この前、塩にはヨークを中和する効果があるっていったことは覚えてる?」
「はい」
ルナは、あらかじめ机の上に置いておいた塩水の容器を指さした。
「これから、この塩水にタイゴ君のヨークを浸すんだよ」
「……?」
「ヨークは中和が行われるとき、抵抗しようと様々な変化を引き起こす性質があるの」
「強いヨークほどその変化が顕著に出るんだ!異能が発現した後なんかは特にね!」
「その様子を見て、タイゴくんが何の戒相なのかを判別するんだよ!」
「ふーむ。なんとなく、わかったような、わからないような……」
タイゴは塩水の容器を眺めた。説明を聞いても、まだ半分も分かった気がしない。
「タイゴくんのヨークは特別だから、どんな変化がでるか楽しみだね!」
ルナが期待に目を輝かせる。
カガリはうなずき、おごそかな声で宣言した。
「それでは、これより“血潮ノ義”《ちしおのぎ》を行う!」
「なんだよ急に!なにを始めんだよ?」
パッ——
ルナは注射器を手にした。そして、興奮気味にタイゴに近づく。
「じゃあタイゴくん、血を抜くね?」
「……は?」
タイゴの顔から、表情が消えた。
♦ ︎ ︎
準備が整った。
タイゴは血が入った試験管を持ち、塩水の容器の前に立っていた。腕には、採血した箇所にガーゼが貼られている。どうやらルナから血を抜かれたようだ。

「準備完了だね!」
目を輝かし、ウキウキするルナ。
そして、カガリは真剣な面持ちでタイゴに告げた。
「タイゴ、これは神聖な儀式だ。今からワシのいうことを復唱しながら、その塩水に血を流すのだ」
「“血潮を以て、我が戒相を証せ”だ」
「……」
タイゴは面倒くさそうに試験管を持ち上げた。
「……血潮を以て、我が戒相を証せ」
トプン──
血液が塩水へ落ちていく。
「てか、わざわざ血を抜く必要があったのかよ?」
「アンチャーの血液にはヨークが含まれている。その血の動きを見ること。それが一番変化の様子を観察しやすいのだ」
「まぁ、見ておれ……」
血液は、ゆっくりと塩水の中へ沈んだ。
タイゴは容器を見つめた。カガリとルナも、黙ってその様子を見守る。
「………」
……何も起こらない。
「なんもおこんねぇけど……?」
「は?」
カガリとルナの声が重なった。
ルナは容器を覗き込む。
「どういうことなの……!?」
「まだ異能が発現してないってこと?」
「いや、それはありえん!タイゴの異能は間違いなく発現している……」
「異能が発現しても反応しないってことはあるのでしょうか?」
「それもない。血潮ノ義は古くから伝わる正統な儀式だ……そんな事例があれば文献に記載されているはずだ……」
二人の話を聞いていたタイゴは、疑わしげに目を細めた。
「……よぉ、2人して俺を騙してんのか?いくら暇だからってこんな厨二病みたいなドッキリやめてくれる?」
(なにが神聖な儀式だよ……)
「大真面目だ!!!!」
カガリとルナの声が響いた。

その後も、容器の中の血には何の変化も起きなかった。
ルナはタイゴを見て、ぱっと表情を明るくした。
「でもすごいよ!!またしても新しい知識を増やしてくれたね!!流石“タイゴくんのヨーク”!!」
「いやー、やっぱ俺って凄いのかなぁ!!」
タイゴは照れくさそうに笑った。
その横で、カガリは考え込んでいた。
どういうことだ?極端にヨークが弱いのか?……いや、どれだけヨークを抑えたとしても多少は血に混ざるはず……
全く反応を示さない……そんなことがありえるのか……??
ルナに褒められ、アホ面を浮かべるタイゴを見ながら、カガリは小さくつぶやいた。
「わからん……」
その時、扉の外から、観測班の声がした。
『カガリ司令、失礼致します!』
『“スターキラ”が来られました!』
「む?……もうそんな時間か??入れ!」
ガチャ——
扉が開く。その隙間から、謎のシルエットが姿を現した。
「ん?」
タイゴが目を向ける。
ミーティングルームの扉の前にはキラキラした女が立っていた。
女は部屋に入ると、タイゴに向かってビシッとポーズを決めた。
「あなたがこの前“私の代わりに”上位個体を討伐した新人のアンチャーズね!!」
「私は星影ミラ!通称“スターキラ”よ!」
星影ミラ
怪獣対策部 戦闘班
ヒーローネーム スターキラ

ミラは、すぐに塩水の容器とタイゴが持っている試験管へ視線を移した。
「あー!塩水に試験管!血潮ノ義をやっているのね!?」
「なんだこいつ……?」
ピクッ。
ミラの眉がひそまる。
「“こいつ”……?新人のくせに、あんた生意気ね!」
「あん?」
「あんた歳いくつよ?」
「18だけど?」
ミラは顎を上げ、タイゴを見下すような視線を向けた。
「ふん!私とタメ《同じ歳》なのね。でも私の方が先輩なんだから敬語使いなさい!」
「……なんなんだよ!お前!!」
!!!
ミラは、はっとしたように目を見開いた。
そして被っていた帽子を脱ぎとり、顔をタイゴに近づける。
「まさかあんた……同じ世代で私を誰だか知らないの?」
「………」
タイゴはミラを上から下まで眺めた。
それから、真顔で答える。
「しらん。」
——バタンッ!
ミラはその場に崩れ落ちた。
「えぇ〜〜〜!?ショック……!!普段テレビや雑誌で引っ張りだこなのに……」
「しらん!家にテレビないしな!」
(ラジオならある!)
タイゴはぼそりと付け足した。
「タイゴ、ミラはお前と同じ戦闘班の1人。“承認欲”のアンチャーズだ」
カガリが淡々と説明する。
「承認欲……?」
ミラはプンプンと怒りながら立ち上がった。
「もう!こんなの聞いてないわよ!司令!!」
「普通私を見たら、みんな1ヨイネ!!それから羨望の目!!そして献上物でしょ??」
タイゴとカガリを指さし、まくしたてる。
「何言ってんだ?こいつ」
タイゴは死んだ目でミラに視線を向ける。
「信じらんない!なんて目で私を見るのこいつ!自信無くすぅぅぅ!!」
カガリはミラをなだめながら説明した。
「落ち着け、ミラ。タイゴは“性欲”のアンチャーズだ。自身の興味あるものに左右されやすいのだ」
「性欲……?」
「ふん!私の魅力がわからない性欲なんて変だわ!センスがないやつね!!」
ミラは唇を尖らせた。
タイゴはミラをじろじろと見て、口を開く。
「変っていったってなぁ……それに……」
タイゴの視線が、ルナとミラの胸元を行き来した。
ルナの胸元。ドーン!!!
ミラの胸元。チーン……。
……!!!
それに気づいたミラの顔が、見る見る赤くなる。
「信じらんない!!こいつ!!」
ミラは胸を隠した。
「こんな屈辱初めてよーー!!わーーーーん!!」
ミラは再びその場で崩れ落ちた。
へたり込んだミラの頭を、カガリが優しく撫でる。
「よしよし……」
「コラッ!」
ルナはタイゴの頭をコツンと小突いた。
タイゴは無表情のまま、黙っていた。

♦
それから少し経ち……
泣き止んだミラは、カガリに抗議した。
「司令!頼まれてた件だけど、こいつには絶対教えてやんないから!!」
「まぁまぁ、そう言うなミラ。こいつの礼儀はワシが叩き込んでおくから」
「……教えるって何をだよ?」
タイゴはキョトンとした。
カガリは真顔で答える。
「ミラは戦闘班の中でもヨークの扱いに長けていてな。今日はお前に“ヨーク戦闘術”を指南してもらう為、ここに呼んだのだ」
ミラの怒りが再びこみ上げる。
「上位個体を単独で倒したから、見込みのある奴だと思って来たけど、とんだ見当違いだわ!あんたなんかに絶対教えてやんないから!」
「べ〜〜〜〜っ!!」
ミラは舌を出した。
「こっちこそお断りだ!"ペチャパイ"!」
「くやしぃぃいいいいい!!!!!」
「………」
カガリとルナは、呆れ顔で二人のやり取りを見つめていた。
——その時だった。
プゥープゥープゥー!!
警報が鳴り響いた。
「!!!!」
「緊急要請!」
ルナが声を上げた。
館内放送から、セナの声が流れる。
『カガリ司令へ通達します。現地観測班が、シン・トウキョウ特区アサクサ町にてヨーク怪獣二体を確認しました』
『この怪獣が確認された記録は、数百年前に上位個体が出現したときが最後です。それ以降、下位個体も含めて出現事例はありません』
『今回の二体はヨーク出力が大きく、数百年前の個体と同じ上位個体だと推定されます。現在の被害状況から、警怪レベルII以上での対応が必要です――』
「なに!?数百年前に現れた上位個体だと……?」
「まずいな、数百年前のデータは当てにならんぞ……!」
カガリの表情が険しくなる。
その言葉を聞き、ルナも眉を寄せた。
「そんな、この前新しい上位個体が現れたばかりなのに……!」
タイゴは、興味なさそうな顔をしている。
「どうしますか!!司令」
慌てるルナの声が響く。
放送を聞いたミラはドヤ顔で胸を張った。
「ふふーんっ!」
「!!」
カガリとルナが、ミラを見た。
タイゴも、だるそうな目でミラを見ている。
「私がこの場にいたこと、運が良かったわね司令!最近まともな怪獣とやり合ってなかったから——」
ミラは得意げに言い放った。
「このスターキラ様が“単独”でその怪獣達を討伐してあげる!」
「……ふむ」
カガリはミラを見つめた。
「いい機会だ。たった今要請があった怪獣だが、ミラ、タイゴお前たち"二人で"討伐してもらう!!」
「!?」
突然の提案に、タイゴとミラはそろって驚いた。
「ちょっと、司令!なに言ってるの!!こんな奴の手を借りなくても、私1人で充分よ!」
「はい、本人もそう言ってますし、こいつに任せようと思います!」
「いや、お前達にはこれから“バディ”になってもらう。出動だ!」
「……はぁ!?!?!?」
タイゴとミラの声が重なった。
——続く。


かわいいキャラが出てきた♡
タイゴとのやり取りもおもしろいし、2人がどうに戦うのか展開が楽しみ!
血潮ノ義が通常だったらどんな風になるか気になるとこだけど…
ありとあらゆる通常を覆すタイゴおもしろいなー