第5話 スイカには、塩じゃねぇ──バットだ。
——Y.I.L司令室。
巨大モニターには、海岸に現れたスイカーンの映像が映る。
「お姉ちゃん!ツクモ海岸で通常のスイカーンよりも強い"食欲"の周波を検知したよ!!」
別のモニターには通常のスイカーンを大きく上回る、ヨーク周波が表示される。
「司令、間違いありません、初の変異事例です!」
◆
——場所不明。
「よりによって初要請で”上位個体”とは…」
カガリの額に汗が滲む。
『どうされますか?司令!』
「すぐに警怪レベルを引き上げ、“欲処理班”に避難勧告の通達をするよう呼びかけるのだ!」
「そして新たに”ミラ”に要請を!」
「タイゴにはワシから撤退を命ずる!」
『了解!!』
◆
——ツクモ海岸。
タイゴは足元へ視線を落とした。

ズズッ……。
下駄が砂へ沈み込み、踏み出すたびに足を取られる。
「そうか…“下駄”を履いてたからな…!
砂浜じゃ足をとられるってわけだ」
カラン…!
タイゴは勢いよく下駄を脱ぎ捨てた。
砂浜を転がっていく二つの下駄。
「……裸足になった俺は——」
素足で砂を踏みしめる。腰を落とし——。
足の指が砂を掴んだ。
「さっきよりもはえーぞ!!!」
ドンッ!!
砂が爆ぜる。
ダッダダダーー!!
タイゴが一直線にスイカーンへ駆け出す。
一歩踏み込むたび、背後へ砂が激しく舞い上がる。
「スイカ如きに負けられるかぁー!」
最後の一歩で地面を強く蹴り——。
一気に宙へ跳び上がった。
「オラァァァァ!!」
その勢いのまま身体を捻り、スイカーンの頭部へ強烈な蹴りを叩き込む。
しかし…

「.......あれ??」
タイゴの足は、スイカーンの片手の掌で、完全に止められた。
次の瞬間——。
スイカーンが腕を振り抜いた。
ビュンッ!
——!!
凄まじい勢いで弾き返される。タイゴの身体が砂浜すれすれを吹き飛び——。
ズザザザーーーーッ!!
「ッッ!!」
背中で砂を削りながら、何メートルも滑っていく。
「………くそが!」
タイゴは倒れた姿勢から、両脚を勢いよく跳ね上げ、その反動に合わせて両手で地面を押し——
ダンッ!!
一気に上体を起こした。
間を置かず、再びスイカーンへ突っ込む。
「まだまだぁぁあ!!」
砂を蹴り上げながら距離を詰め——。
今度は拳を大きく振りかぶる。
ブンッ!!
全体重を乗せた拳が、スイカーンへ迫る。
だが——。 ガシッ!
「ゲッ!!」
拳はまたしても、片手で止められた。
スイカーンの指がタイゴの腕を掴む。
——ギュンッ!!
「!?」
身体が一気に持ち上げられた。
スイカーンが腕を引き、体を回転させる。
「——うぉっ!?」
景色が目まぐるしく回る。海。空。砂浜。また海。

「——っちょちょっ!ストーップ、ストーップ!!」
ブンブンブンッ…..!
回転速度がさらに上がる。
「お、おいっ——」
パッ...!
スイカーンが突然、手を離した。
「……え?」
ビュンッ——!!
「うおぉぉぉぉぉ!!」
タイゴの身体が砲弾のように空中へ射出される。
グングンと砂浜が遠ざかり——。
「ぅぉぉぉぉおお!!」
そのまま海へ。
バッシャーーーン!!
水柱が、高く打ち上がった。水飛沫が海面へ降り注ぐ。
そして——。
ブクブクブク....。
「——ぶわはぁッ!!」
バッシャッ!!
タイゴは、たまたま海に浮いていた浮き輪から顔を出す。

海上。
ぷかぷか……。
「………。」
無言でタイゴは浮き輪に掴まっている。
「なんだあいつ!めちゃくちゃ強ぇじゃねぇか!!」
脳裏に浮かぶのは——。
“大した怪獣ではない”と言っていた、カガリの姿。
「聞いてた話とちがうだろ!......あのジジイ!」
そう呟きながら、タイゴは浮き輪の上へ乗り込み、体勢を変えた。そして、右手を見つめる。
……それとも俺が弱いのか?
「てか、このグローブつけて殴ってるのに、何も効かねぇじゃねーか!💢」
アンチャーグローブを見ながら、怒りをあらわにする。
その時。
ピピピピ…!!
「ん?」
ヨークウォッチが鳴り始めた。
画面には——。『老害』
ピッ!
「なんだよ?電話できねーんじゃないのか?」
『タイゴ!もう戦闘に入っているのか!?』
「ああ? 只今、絶賛海の上でバケーション中だよ……!」
浮き輪に乗ったまま、タイゴは海の上を漂う。
『なにを言ってるんだ!それより、よく聞け!!お前に要請を出したスイカーンだが──』
……??
『戦わずに撤退だ!』
「はぁ?どういうことだ?戦うな、つったって、もう交戦中だよ」
◆
——場所不明。
「な、なんだと!?……遅かったかッ!!」
カガリの額から汗が流れる。
「最新の観測結果で、そいつは“上位個体”と判断された!」
——海上。
「上位個体??」
『そうだ!』
——ピンポンパンポン!!
突如、海水浴場に設置されたスピーカーから、防災放送が流れ始める。
『こちら防災放送。ヒノモト防衛隊より通達があり、ただいま、ツクモ海岸一帯が異常災害区域に指定されました。』
『異常災害国防法に基づき、本海岸一帯は封鎖されます。海岸にいる方は、ただちにその場を離れ、係員の指示に従って避難してください。』
繰り返します──
「なんだ?避難??」
『とにかく今は海上にいるのだな?』
「ああ」
『であれば、怪獣はヘタに手出しはできない、しばらくそこで待機をするのだ!』
「待機って──」
……!!
突然タイゴの足に、何かが触れた。

「はっ…??ツル??」
グイーーン...!!
「うおぉおおおっ!!」
ツルによりタイゴの身体が一気に持ち上げられた。
ツルに吊り下げられたまま、空中を右へ左へ振り回される。
◆
その頃、砂浜では。
「指示に従って速やかに避難してください!」
避難誘導を受けた人々が、次々と砂浜を離れていく。
「なんで、ここが異常災害区域に指定されたんだろう?こんなにのどかな場所なのに」
「分からないけど、さっさと離れた方がよさそうだぞ」
.......!!
「え!!あれ見て!!」
一人が空を指差した。
その目線の先には——。
天狗が、一人でに空中を右往左往していた。

「異常災害だ!!!!!」
◆
——上空
「離せやコラ!!」
タイゴが、自分を吊るすツルへ怒鳴る。
ピタッ......!!
ツルの動きが止まった。
「……あっ」
タイゴは下を見る。遥か下には海が広がっていた。
「やっぱ、離すな!」
ビュンッ!!
ツルがしなり、砂浜を目掛けて、勢いよく放り投げる。
「げッ!!」
ビューーーーーーー!!
目の前の景色が、一瞬で後ろへ吹き飛んでいく。
「うおおおおおおおお!!!」
(やべぇ……これ、死——)
——ドクンッ!!
次の瞬間——。
ズドォォオオオン!!!
タイゴの身体が、凄まじい勢いで砂浜へ叩きつけられた。
ブワァッ!!
大量の砂が爆発したように舞い上がり、辺りを覆い隠す。
…………。
砂煙がゆっくり晴れていく。
そこには——
顔面から砂浜へ突き刺さったタイゴの姿。
「ボヘェッ!!」
タイゴは砂まみれの顔を勢いよく引き抜いた。
「…ってててて……」
「ってぇな!! あのスイカ頭!!」
なんとか無事だった。
『大丈夫か!タイゴ!』
「陸に戻されちまったぞ…!」
タイゴが身体を起こす。
ザッザッザ......。
「ノガサン…!!」
すぐ目の前にはスイカーンが迫っていた。
「ちっ、こいつ生意気なこと”言いやがって”!」
◆
——場所不明。
言葉を話す怪獣……。“知性がある個体”か、厄介だな
カガリの目つきが鋭くなる。
「とにかく、そいつは通常のスイカーンと比べて格段に強い…!!!!」
——ツクモ海岸、砂浜
ザッザッ……。
スイカーンが、ゆっくりとタイゴへ近づいてくる。
『今のお前ではおそらく勝てない!』
『“もう一人アンチャーズ”を派遣している!駆けつけるまでなんとか持ち堪えてくれ!』
ダンッ!!
スイカーンが砂浜を蹴り、タイゴの眼前へ拳をくり出す。
——!!

ドゴォッ!!!
「ぐはっ……!!!」
重い拳が、タイゴの顔面へ真正面から突き刺さる。
バキッ!!
衝撃と同時に、天狗のお面の一部が砕け散った。
タイゴの頭が大きく弾かれ——。
そのまま身体ごと、砂浜の向こうへ吹き飛ばされる。
ズザザザーーーーッ
砂浜を転がり、そのまま倒れ込む。
「ハァハァ、、くそ、いいのもらっちまった….」
上半身を起こすも、すでにボロボロの様子。
「あっ、お面が……!」
タイゴは欠けた部分へ触れた。そこから覗いた額が切れ、血が滲んでいる。
『タイゴ!!無事か!?』
「あぁ、なんとかな……ただ、このグローブ、ちっとも役に立たねぇじゃねぇか!!」
タイゴがアンチャーグローブを見る。
『落ち着け!!そのグローブは、お前の“欲”──つまりヨークを通して、力を引き出す武器だ』
『ヨークがなければ、ただのグローブにすぎん!』
『ナメトン戦の時、お前は何かを意識してヨークを生み出したはずだ!!』
『思い出せ!あの時お前は、どうやってナメトンに勝った?』
「……あの時の俺?」
タイゴの脳裏に、ナメトンを殴りつけた時の光景が蘇る。
だが……
「……"何を意識したか"なんて覚えてねぇよ!」
ズズズ…ズウゥン…!!
……!?
スイカーンの拳と足へ、大量のヨークが集まり始める。

…なんだ?力を溜めてんのか…??
刹那——。
スイカーンの姿が消える。
「え?消え——」
ズゥンッ
次の瞬間、拳が目の前にあった。
「——!!」
タイゴは咄嗟に両腕をクロスさせる。
【全身全霊パンチ!!】
バリバリバリバリィッ!!!
「ぐぉおおおおおお!!!」
拳が、構えた両腕へ叩き込まれ——。
凄まじい衝撃が、ガードした両腕ごとタイゴの身体を貫いた。
腕が軋む。肩が跳ねる。
足元の地面が、一瞬で抉れ——。
バキィンッ!!
拳を受け止めた左手首。そこに巻かれていたアンチャーウォッチが、衝撃に耐えきれず砕け散る。
ドガァァァン!!
弾丸のように後方へ吹き飛ばされた。
「っ——!!」
勢いは止まらない。
背中が地面を削り、砂埃を巻き上げながら何度も跳ねる。
そして——。
ドサッ……。
ようやく勢いが止まった。
「……ハァ、ハァ、ハァ……ゲホッ! ……ハァ、ハァ……」
タイゴは地面に倒れたまま、起き上がれずにいた。
......なっなんなんだよ、今の.....
これまでより、格段に攻撃が重ぇ…
ズキッ!!
ッッ…左腕が…動かねぇ…
タイゴは動かなくなった左腕を見る。
そして同時に——。
粉々になったアンチャーウォッチへ目を向けた。
通信が…!!
「はぁ、はぁはぁ、…くそ…!!!!」
ザッザッザッ……。
「………」
異様なヨークを纏ったスイカーンが、再びゆっくりと歩いてくる。
追撃がくる……!!
今のをまた食らったらやべぇぞ……
くそ……!!どうすりゃいい!!
額から血を流しながら、タイゴが横へ目を向ける。
「ん?」
その視線の先。
砂浜に一本のバットが落ちていた。
「これだ……!!」
◆
ザッザッ……ザ。
スイカーンが、ボロボロになったタイゴの前に立ちはだかる。
「よう、スイカ頭……さっきからボコスカ殴りやがって」
タイゴはバットを右手に取り、杖をつくように立ち上がった。
「おかげで、“視えやすく”なったぜ?」
欠けたお面の部分を、親指で指す。
「………」
スイカーンは気にも止めない。
ズズズズズ…
再び、拳と足へヨークを溜め始める。
「ちっ“めんどくせぇ”野郎だな…!」
——ドクン…!!
タイゴの心臓が、大きく脈打った。
ズズズズ…
黒いヨークが——。
右手のグローブと、握っているバットへ集まり始める。
シュン…!!!!
再度スイカーンが間合いを詰めた。
拳を振りかぶる。その瞬間——。
「オラァ!!!!」
タイゴが、右腕一本でバットを全力で振り抜いた。
ガキッィィン!!!
バットが、スイカーンの拳を真正面から打ち抜く。
「——!!」
今度は スイカーンの身体が吹き飛ぶ。
「…………!?」
スイカーンは両手を地面につき、タイゴを見上げた。
その先。
禍々しい黒いヨークが、タイゴのバットとアンチャーグローブを覆っている。

「……攻撃、喰らったな?」
「形勢逆転だ、スイカ頭!!」
——続く!!


タイゴがピンチ!!老害が助けに向かってると思っていたのに他のアンチャーズが来るって新しい仲間?と思い、楽しみが増えました。
アンチャーズウォッチも壊れてしまっていよいよタイゴがヤバいと思ったら窮地にやっとヨークが出て次回のお楽しみ…
でもすぐ次回が読めそうなのですぐ読みたいと思います( * ॑꒳ ॑*)
スイカーンが上位個体で老害が応援に来てくれる?と期待してましたが違うアンチャーズの応援が来るって違うワクワクが!!ボロボロになってタイゴのヨークが現れて次回楽しみです!すぐ読めるらしいのですぐ読みたいと思います!