第1話 俺の名前は天神タイゴ
古びたラジオから、軽快な二人の声が流れている。
「なぁ、異常災害国防法できてから、もうだいぶ経つやん? 最近、避難勧告めっちゃ増えてへん?」
「増えとるなぁ〜。まぁでも、なんか起きても防衛隊がすぐ復旧してくれるしな。ほんま、防衛隊様々やで」
カタカタカタ——。
回り続ける扇風機の音に混じって、会話は続く。
「ヒノモトは昔から災害多いしなぁ。しゃーないんちゃう?」
「いや、それにしても多すぎるやろ。それに災害が起きる地域は、犯罪率まで上がっとるらしいで」
「まぁ、色々事情があるんとちゃう?」
「……でな、これ噂なんやけど」
一拍の間。
「その“災害”の裏で——」
「誰かが戦ってるって話があるらしいで?」
——プツン。
突然、ラジオが途切れた。同時に扇風機もゆっくりと止まり、薄暗い部屋から音が消える。
◆
布団の上に、一人の青年が横たわっていた。
「……電気……止まったか……」
目を開けるも、起き上がろうとはしない。身体はひどく衰弱していた。
【俺の名前は天神《あまがみ》タイゴ。】
空のペットボトル。割り箸。積み重なった弁当容器。ゴミに埋もれた部屋の中、タイゴは寝たまま一冊の通帳を引き寄せた。
ゆっくりと開く。

残高——315ZEN。
「…………」
無言で通帳を伏せた。
【——早速だが、俺は死のうと思っている。】
悲壮感はない。ただ、虚ろな目で天井を見つめている。
【理由は単純。】
【生きるのがめんどうだからだ……。】
◆
【俺は最近まで働いてた。】
——三ヶ月前。
『HAKOBU』と書かれたバッグを背負い、自転車を漕ぐタイゴ。
組織に属するのが苦手な俺には、気楽な仕事だと思っていたが——。
「どんだけ待たせるんだ!!」
配達先の玄関で、小柄な男が声を荒らげていた。
「もう冷めてるじゃないか!」
タイゴは面倒そうにスマホを取り出す。
「……これの使い方に慣れてねぇーんだよ」
「なんだ、その口の聞き方は!」
「運ぶことしか脳がないんだから、きびきび働け!」
——バタン!!
勢いよくドアが閉まった。
「…………」
「うぜぇ」
【——俺はパシられてる気がして、その仕事を辞めた。】
◆
——そして現在。
タイゴは布団の上で身体を丸めていた。

もう数日は飯を食ってない……。
つーか、食うのもめんどくせぇ。
飯を食うには金がいる。
金を得るには気力がいる。
——しかし、気力は元からない。
少し考える。
では、どうするか?
——“なにもしない”ことだ。
タイゴは仰向けになり、天井を見つめた。
ここまでくると、逆に腹も減らねぇ……
断食大会とかあったら、俺……チャンピオンかもな……
「……フッ」
わずかに笑う。
「……なんのチャンピオンだよ」
そして、再び天井を見つめた。
「生きるって……」
「“めんどくせぇ”な……」
——ズキンッ!!
「うっ……!」
突然、胸に鋭い痛みが走った。
ドクンッ!!
心臓がいてぇ……
ドクン! ドクンッ!!
「なんだ……?」
鼓動が急激に速くなり、タイゴの身体に血管が浮かび上がる。
……いよいよ、死ぬのか?
そして——。
——ズズズズズッ!!

タイゴの身体から、黒く濁った靄《もや》が溢れ出した。
靄は布団から床へ流れ、部屋中へ広がっていく。
(意識が……薄れる……)
(身体も……痺れ……て……)
そのまま、タイゴの意識は途切れた。
◆
——暗闇。
光も音もない。
これが……死なのか……?
静寂が続く。
あっ……今この部屋で死んだら、“社長”に迷惑かけちまうな……
まぁ、もうどうでもいいか
再び静寂。
俺……なんでこんな人生になったんだっけ?
——ボワッ。
暗闇の中に、一つの景色が浮かんだ。
深い森。その奥にそびえる、大きな山。どこか懐かしく、とても穏やかな景色だった。
……どこだっけ、ここ
……まぁ、考えるのもめんどくせぇや
死んだ後は、"神様"がなんとかしてくれんだろ?
もう何もしねぇ……
全部、終わればいい
——“後悔はねぇよ”
◆
ズズズズ……。
現実では、黒い靄がタイゴの身体を覆い尽くそうとしていた。
その時——。
再び、タイゴの意識に景色が浮かぶ。
深い森の中に佇む、重厚な神社。その前に、一人の女が立っていた。顔は見えない。だが、女はタイゴへ向かって、ゆっくりと手を差し伸べている。

ドクンッ!!
身体を覆っていた黒い靄が大きく揺れる。
そして——。
ブワッ!!
タイゴの身体から、輝くオーラが一気に噴き上がった。
◆
——翌朝。
ミーン……ミーン……。
夏の日差しの中、セミの声が響く。
「ちっ……うるせぇな……」
タイゴがゆっくりと目を開けた。
……え?
昨日までの衰弱が嘘のように、身体に力が戻っている。
手を握り、開く——。
「なんで死んでねぇんだ?」
——ビリッ!!
「ッ!?」
突然、指先から全身へ鋭い痺れが走った。
「なんだ、また体が……!」
ドクンッ!!

「うっ……!」
胸を押さえる。
その瞬間——身体の奥底から、猛烈な欲求が湧き上がった。
「はぁ……はぁ……」
「なんだ……これ……?」
何を求めているのか分からない。
だが——。
「……塩」
突然、頭の中を、その一文字が埋め尽くした。
「塩が欲しいッ!!」
ダッダッダッ!!
タイゴは台所へ飛び込んだ。
「塩! 塩! どっかにあんだろ!!」
棚、引き出し、冷蔵庫——片っ端から漁っていく。
「ねぇ! ねぇ! ねぇーー!!」
しかし——。
「…………」
「なにもねぇぇぇ!!!」
その場に崩れ落ちる。
ドクンッ!!
「うっ……!」
胸を押さえながら、汗だくで周囲を見回した。
「どこだ……?」
「どこかに塩はねぇのか……?」
◆
——ハカタ町。
昼の通りを、多くの人々が行き交っている。その一角には人気のラーメン屋がある。
ぬるり……。
異様な“何か”が姿を現した。豚のような頭。ナメクジのように湿った身体。
ズル……ズル……。
怪物は巨体を引きずり、ラーメン屋へ近づいていく。
しかし——誰も気づかない。

通行人は、怪物のすぐ横を平然と通り過ぎていく。
ズズズズ……。
やがて、怪物の身体から禍々しい瘴気が溢れ始めた。
そこへ、二人のOLが通りかかる。
「今日のランチ、パスタにする?」
「いいわね! 私も麺がいいわ!」
ズズズ……。
瘴気が、一人の鼻先へ漂う。
「……やっぱり“パーメン”にしない?」
「え? なに言ってんのよ——」
スゥ……。
今度は、もう一人の鼻から瘴気が入り込んだ。
「……“パーメン”の間違いでしょ?」
「そうよ!だから“パーメン”だって!」
ギョロリ……。
二人の目から生気が消え、視線がラーメン屋へ向く。
「パーメン!!」
「パーメンにしよう?パーメン!」
「あっ、ラララ、ラーメン?ランメン?」
「ラランメン、ララメン、ラーメンね?」
二人のOLの言動はあきらかにおかしくなっていき、そのまま店へ歩いていく。
そして——。
一人。また一人。気づけば周囲の人々まで次々とラーメン屋へ集まり、店の前には長蛇の列ができていた。
「ラーメン……」
「ラーメン……」
「ラーメン……」
虚ろな人々の横で——。
ギョロリ。
怪物の大きな目が動く。
そして——。
ニタァ……。
不気味な笑みを浮かべる。
◆
—— 一方、その頃。
ザザァァ……。
波打ち際に、タイゴはいた。
ゴクッ! ゴクッ! ゴクッ!
両手ですくった海水を、猛烈な勢いで飲んでいる。

「…………!!」
勢いよく顔を上げた。
「しょっぺぇっ!!!!」
◆
しばらくして——再びハカタ町。
タイゴは買ったばかりの塩のビンを片手に歩いていた。
「結局、なけなしの金で買っちまった……」
ビンの中で白い塩が揺れる。
「昨日まで飯もいらなかったのに……なんで急に塩なんだ?」
首を傾げながら、ビンをバッグへしまった。
その時——。
ふわりと豚骨の匂いが漂ってくる。
「あ……なんか、ラーメンも食いたくなってきたな」
「塩味もあるし……」
何気なく顔を上げる。
「……ん?」
大通りの先。ラーメン屋の店の前に、明らかに異質な“何か”がいた。
「は?……なんだ、あいつ?」
豚……?いや……ナメクジか?
ギョロリ——。
怪物の目が動き、タイゴを捉えた。
「なんかこっち……睨んでねぇ?」
タイゴは周囲を見回す。
しかし、誰一人として怪物に反応している者はいない。
他のやつには……視えてねぇのか?
すると——。
「プギャアアアアア!!!」
「うおっ!?」
「なんだよ!?」
怪物が身体を大きくうねらせる。
——ダンッ!!
ズゾゾゾゾゾッ!!

巨体がタイゴを目掛け、一直線に迫ってくる。
おいおいおい……
「こっち来るぞッーーー!!!」
——ドォオンッ!!!!
「ぐはぁッ!!」
怪物の突進がタイゴに直撃し、身体は大きく宙を舞う。
ドガァァンッ!!
そのまま壁へ叩きつけられた。
「ぐっ……!」
タイゴの口元から血が流れる。
「....ッ!!な、なんだあいつ……!」
——タッタッタ!!
「大丈夫かい君!?」
一人の通行人が駆け寄ってきた。
「すごい音したけど、トラックにでも轢かれたのか!?」
「は?」
タイゴは怪物を見る。
怪物は、今も目線の先にいる。
「おい、あんた!」
「“あいつ”が視えてねぇのか!?」
「あいつって……?」
通行人の視線は——怪物を素通りした。
「イテテ...なんで視えねぇんだよ……」
体を起こし立ち上がる
「プギャアアアアアー!!」
再び怪物が身体をうねらせる。
ズゾゾゾゾゾッ——!!!!
そして今度は、タイゴと通行人の二人へ向かって猛進した。
「!!」
タイゴは隣にいる通行人を見る。
「危ねぇーッ!!!」
ドンッ!!
咄嗟に通行人を突き飛ばした。
「わぁあ!!!」
通行人の身体が横へ飛ぶ。
直後——。
ガシィッ!!!!

「ぐっ……んの野郎ッ!!」
タイゴは両腕で怪物の巨体を受け止めた。
ズザザザザザ……!!
下駄が地面を削る。
それでも踏ん張り——。
「止まれやッ!!」
怪物の突進を止めた。
「なめやがって……!」
拳を振りかぶる。
「オラァァァ!!!」
ドゴッ!!
タイゴのパンチが怪物に炸裂する。
しかし——。
ぽよーーん……。
柔らかな身体が衝撃を吸収した。
「……は?」
ブルルッ!
怪物は何事もなかったように起き上がる。
「全然効いてねぇ……」
タイゴは拳を見る。
「てか、なんかヌルヌルする!」
謎の粘液を振り払う。
「しかも豚骨くさ——」
——ドォンッ!!!!
「がはっ!?」
再び突進を食らい、タイゴは大通りから路地裏へ吹き飛ばされた。
ガシャァァン!!
積まれていたゴミの山へ突っ込んだ。
「ーッ……くそ野郎ッッ……」
ゴミに埋もれ、身体中にゴミが付着する。
「なんだってんだよッ!!!!」
◆
その頃——。
町のどこかで一人の大柄な男が足を止めた。
「む?」
何かを感じ取り、周囲を見回す。
「“ヨーク”の気配……」
男の目が細くなる。
「近いな……」
◆
——路地裏。
ズル……ズル……。
怪物がタイゴのそばまで這い寄る。
「おい……待てって」
「とりあえず話し合おうぜ?」
怪物がゆっくりと口を閉じた。
ゴポッ……。
怪物の頬が、みるみる膨れ上がっていく。
「……?」
ゴポゴポゴポッ——。
次の瞬間——。
ブシャァアア!!

「うわぁぁあ!!」
濁ったスープ状の液体がタイゴへ直撃した。
「なんだこれ……豚骨くせぇ!!」
強烈な臭いが立ち上る。
ぐらぁ——。
「あれ……?」
視界が大きく揺れた。
「頭が……」
タイゴが片膝をつく。
その姿を見て——。
ニタァ……。
怪物が不気味に笑った。
◆
——路地裏近くのビルの屋上。
先ほどの男が、眼下を見下ろしていた。
ピピピ……ピッ。
男は腕時計型の機器へ話しかける。
「ハカタ町に怪獣“ナメトン”が出現した」
「ワシが対処する」
ピッ。
通信を切り、再び路地裏へ目を向ける。
「"ヨークの気配は“ナメトン"だったか……」
怪物を視てそう呟く。
「大した“怪獣”ではないが——それよりも」
男の視線が、タイゴへ移る。
「あいつ……視えておるのか?」
◆
路地裏。
「やべぇ……頭がクラクラする……」
タイゴは頭を押さえ、片膝をついている。
「この臭い、気絶しそうだ……」
ズル……。ズル……。
怪物がゆっくりと後ろへ下がる。
「ブルルルルル……!!」
タイゴとの距離を取ると、再び突進するために身体へ力を溜め始めた。
「どうしろってんだよッ……!!」
◆
屋上では謎の男がその様子を見下ろしている。
スッ——。
ゆっくりと右手を上げた。人差し指を立て、その指先を空へ向ける。
ズズズズズ……!!
「…………」
何かをしようとしている。
一方タイゴは——。
キランッ。
「……ん?」
タイゴのショルダーバッグから、何かが光った。
「……あ、塩」
先ほど買った塩のビンに反応する。
天啓——!!
タイゴの頭の中で二つのものが結びつこうとしていた。
ナメクジと...
「……塩」
ポン。 ポン。 ポン。
——チーン!!
ナメクジ+塩=溶ける。
「これだッ!!!」
タイゴはゆっくりと立ち上があがろうとする。
その背後から——。
ゆら……。 ゆら……。
——ズズズズ……。
黒く濁った瘴気が立ち上り始めた。

◆
「なに!?」
謎の男はタイゴの異変に気づき、目を見開く。
「“ヨーク”だと!?」
腕を下ろし、とっさに動きを中断させた。
「まさか、あやつ……」
◆
「ブルルルルル……!!!」
怪物はすでに力を溜め終えていた。
「めんどくせぇなお前……」
キュッ。
タイゴは塩のビンを取り出し、蓋を開ける
「プギャァァァアーー!!!!」
ズドンッ——!!
怪物が再びタイゴへ目掛けて猛進する。
——その瞬間!!
「これでも、くらえや!!!!」
タイゴがビンを思いきり振り抜いた。
ブワァッ!!!!
「!!?」
大量の塩が一気に宙へ舞い——怪物の全身へ降りかかる。
「ギィィイイイ!!」
怪物の身体が大きくうねる。
ドゴォーーン!!
軌道を逸らし、そのまま壁へ激突した。
「プギャギャァアア!!」
塩を浴びた怪物が、苦しそうに身体をのたうち回る。
「よっしゃあ!!!!」
「やっぱ効いてる!」
タイゴの顔に手応えが浮かぶ。
「ギギギギィ!」
スタッ——。
「おい……“ナメクジ豚骨”……」
タイゴは怪物の近くに歩み寄る。
その背後で——
ズズズズズズッ……!!
黒い瘴気が、みるみる膨れ上がっていく。
ドクンッ!!
タイゴの心臓が強く脈をうつ。
「ピギャ!?」
怪物がタイゴの瘴気に反応する。
ググググッ……。
タイゴは拳を強く握る。背後の瘴気が腕を伝い——握り締められた拳へと集まっていく。
「“ナメクジ”にはよぉ……」
タイゴが大きく拳を振りかぶる。
「……塩だろうがァァ!!!」

——ドォオン!!!!
黒い瘴気を纏った拳が、怪物の身体へめり込む。
バキッ!!
その衝撃が柔らかい肉体を突き抜け——。体内にあった“核”を破壊した。
「ピギャァァァア……!!」
ドガシャァァン!!
怪物が壁へ叩きつけられる。
「ウッ……ウマ……カッ……チャン……」
ズル……。
そのまま身体が崩れ落ちた。
「ハァ……ハァ……」
ススススゥー。
タイゴの身体を覆っていた黒い瘴気が、静かに消えていく。
「……倒したのか?」
怪物は動かない。
タイゴは自分の拳を見る。
最初のパンチは効かなかったのに……
なんで今のは効いたんだ?
少し考える。
……塩のおかげか?
しばらく考えるが——。
「まぁ、勝ったからいいか」
すぐに考えるのをやめた。
◆
怪物の身体が、少しずつ溶け始める。
ドロ……ドロドロ……。
てか……なんだったんだ、こいつ?
その時——。
溶け始めた怪物から、食欲をそそる豚骨の香りが漂ってきた。
……なんか、いい匂いだな
タイゴが鼻をひくつかせる。
「こいつ……食えたりして……?」
しゃがみ込み、怪物を観察する。
スタッ——。
その背後に、大きな人影が立った。
「ほう。“ナメトン”を倒したのか……?」
低く、太い声。
見事に“核”まで破壊しておる
「あん?」
タイゴが振り返るとそこには大柄な男が立っていた。

ジーーーーー。
「なんだお前?」
「なにジロジロ見てんだよ」
男は構わず、タイゴを観察する。
今は“ヨークの反応”はない……
だが、間違いないだろう
そして、怪物へ視線を移した。
「おい、お前」
「そいつが視えているのだろう?」
「ああ?誰だよ?ジジイ」
「ワシの名は篝 火造《かがり ひづくり》」
男は胸を張って名乗る。
「お前のような特殊な人間を管理している者だ」
「はぁ??」
「お前、名を何という?」
「.......天神タイゴだ」
「天神タイゴ……」
カガリはその名を確かめるように呟いた。
「では、天神タイゴよ。今のお前はおそらく“覚醒”し、“ヨーク”が扱えるようになっている……」
「はぁ? あんだって?」
タイゴは眉をひそめる。
「急に出てきて、なに訳わかんねぇこと言ってんだよ」
そして、怪物へ向き直った。
「俺は今、忙しいんだ」
バサッ——!
ショルダーバッグから、透明な袋を取り出す。
「……おい」
「そいつ持って帰るのか?」
「うん。なんか美味そうだからな」
タイゴは怪物の残骸を袋へ詰め始める。
「スープにすると、より美味くなるぞ」
「え?」
カガリが袋に入った残骸を指差した。
その瞬間——。
ぐにゃ……。
怪物の残骸が一気に崩れ始めた。
「…………は?」
ドロドロドロ……。
肉体はみるみる溶け、その場でスープ状へと変わっていく。
「おお……!?」
袋を広げたまま、タイゴが見つめる。
なんだ? 急に溶けてスープになったぞ……
そんなタイゴをよそに、カガリは話を続ける。
「さて、話を戻そう」
真っ直ぐタイゴを見据えた。
「タイゴ!」
「なんだよ」
カガリは胸を張り——。高らかに言い放った。
「今日からお前は“ヒーロー”となるのだ!!」
「え???」
一瞬の沈黙。
「…………」
タイゴはカガリの顔をじっと見る。
そして——。
「……嫌だよ」
即答だった。
——ニヤリッ。
カガリが笑う。
「失礼」
「は?——」
その瞬間——。
——ぐわん……。
「……?」
タイゴの視界が大きく揺れた。そして、膝から力が抜ける。
——ドサッ!!
そのまま身体が地面へ崩れ落ちた。
何をされたのか、タイゴにも分からない。
薄れていく意識の中。最後に見えたのは——自分を静かに見下ろす、カガリの姿だった。
この日——。
生きることを諦め、
死ぬ予定だった一人の男の日常は、
本人の意思とは関係なく——
大きく変わり始めようとしていた。
——続く。



おもしろーい!
早く次が読みたくなっちゃう!!